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2016年11月16日 (水) | Edit |
前回は、周波数が低くなるにつれてスピーカの振動板振幅が急増し、その結果として低音の歪みが増加するというオハナシをしました。では、振動板の振幅が増加すると、なぜ歪みが増加するのでしょうか。今回は、ソノヘンについてオハナシします。

スピーカの振動板はエッジとダンパ(スパイダとも呼ぶ)によってフレームに支持されています(Alpair5のようにダンパが無いやつもある)。このサスペンション機構は、振動板を常に中立位置へ引き戻そうとするバネとして働きます。このバネの特性がどこまでも直線的(リニア)に伸びるのなら良いのですが、ある程度振幅が大きくなると、引き戻す力が急激に増加します(つまりサスペンションがもう伸びられないと突っ張る、バネの特性が非線形になる)。そうすると、振動板の動きが頭打ちになって、信号通りの音を出せなくなります。このような振動板の運動の頭打ちが発生すると、元の周波数の3倍の周波数(元の音が40Hzなら120Hz)を持つ歪み(3次高調波歪み)が発生します。つまり、元の信号にはないノイズが3倍の周波数で発生するという事です。

この振動板の頭打ちは、サスペンションの非線形性によって生じるだけでなく、ボイスコイルとマグネットギャップで構成される磁気回路(モーター)の非線形性によっても生じます。概ね正しく(線形的に)ボイスコイルを駆動できる振幅はXmaxと呼ばれ、カタログ値として表示される場合があります。下はXmaxの概念図です。詳しくは過去記事を参照してください。
xmax.jpg

サスペンションと磁気回路のどちらかの線形性が悪化すると3次の歪みが増加します。どちらが欠けても駄目ですよ。両方が大切です。

以下は私が実際に計測したサスペンション特性の例です。
spring.jpg
Driver AはP社製の比較的設計の新しい13cmクラス市販ウーハーです。最近のトレンドに倣い、非常に大きなXmax値をカタログで謳っています。Driver Bは、お馴染みMarkAudio製13cmフルレンジドライバです。
横軸は振動板の中立位置からの移動量(振幅)です。引っ込み側で計測しています。
縦軸はサスペンションが振動板を中立位置に向かって引き戻そうとする力です。
グラフにはXmaxのカタログ値もプロットしています。

どちらも、振動板が大きく動くと、最後には引き戻す力が急激に増加します。これはサスペンションが伸びきって、これ以上伸びるのがシンドイ状態です。DriverAに比べてDriverBの引き戻す力は全体的に弱く(つまりサスペンションが柔らかい)、右側へより長く直線的に伸びています(つまり直線性が保てるストロークが長い)。

Xmaxに注目すると、DriverAの方がカタログ値のXmaxは大きいのですが、Xmax(つまり磁気的限界)に達する前にサスペンションの機械的限界に達してしまいます。これに対し、DriverBはXmaxの位置でもサスペンションの直線性(ストローク)にまだまだ余裕があります。つまりDriverBでは磁気的限界の方が先に来るため、サスペンションの直線性が良好な領域内だけで振動板が駆動されます。

下は、これらのドライバで計測した40Hzにおける3次歪み率です。
hizumi.jpg
DriverAはある音量から3次歪みが急激に増加しますが、DriverBの3次歪みは計測した範囲では殆ど増加しません。過去記事をご覧になると分かりますが、このMarjAudioドライバは最後の最後まで3次歪みは激増しません。正に驚異的です。

以上から、サスペンション特性の重要性が十分にお分かりいただけたと思います。また、最近の市販ドライバの多くがカタログで非常に大きなXmax値を謳っていますが、サスペンションの特性がそれに見合ってロングストローク化していなければ、宣伝用のハッタリに過ぎないと言えるでしょう。カタログのXmax値については注意が必要です。Xmaxは単なる機械的設計寸法として簡単に大きくできるのですが、サスペンションの設計には非常に高度で繊細なメカニカル エンジニアリングが求められます。

一般的に、スピーカの高調波歪みは、2次と3次に大きく現れます。4次以上の歪みも現れますが、それらは2次/3次に比べて非常に小さい(通常は1%を大きく下回る)ため、気にする必要はありません。
3次歪みは、機械的および磁気的な限界によって振動板の動きが頭打ちになる事によって生じる事は既にオハナシしました。
2次歪みは、振動板の出っ張り側と引っ込み側で機械的および磁気的な特性が異なる事によって生じます。つまり、動きが中立位置を挟んで出っ張り側と引っ込み側で非対称になる事によって生じます。

この事を分かりやすく説明するため、シミュレーション波形をお見せします。クリックで拡大してご覧ください。
simu.jpg
青の波形が振動板の動きです。振動板の動きがそのまま圧力(音)の波形になるのではありません。圧力は振動板の動く速さに比例します。つまり振動板の動きを時間微分する事で音の波形が求まります。緑が、その音の波形です。

▼左上の図は歪みの全くない状態です。振動板の動きも音の波形も完全な正弦波です。
▼左下の図は、振動板の動きを正弦波(赤破線)に対して上側へ偏らせた場合の結果です。そうすると2次歪みが発生して音の波形は右側へ偏ります。この波形の2次歪み率は約7.5%です。
▼右上の図は、振動板の動きを上下で少し頭打ちにした場合の結果です。すると3次歪みが発生して波形の頭が尖ります。この波形の3次歪み率は約2.5%です。
▼右下の図は、さらに大きく頭打ちにした場合の結果です。音はもはや正弦波とは全く異なります。この波形の3次歪み率は約7.5%です。

3次歪みは振動板がある振幅を超えると雪崩を打つように激増しますが、2次歪みは振幅に対してどこまでも単調に緩やかに増加します。このため、スピーカの低音再生限界は3次歪みが激増する振幅によって決まります。

2次歪みは、3次歪みに比べると聴感的にあまり気になりません。私が自分で行った聴感試験によると、2次歪みは数%あっても許容できます。しかし、3次歪みは2%が限界であり、願わくば1%以下に抑えたいところです。詳しい実験の内容は過去記事をご覧くださいませ。

2次の歪みは2倍の周波数を持ちますから、元の音の丁度1オクターブ上の音です(元の音がドなら2次高調波の音は1オクターブ上のド)。なので、余り気にならないのかもしれません。あるいは、単純に3次よりも2次の方が元の周波数に近いからなのかもしれません。その辺は不明です。しかし、とにかく、3次歪みというヤツが、極端に低音再生クオリティを劣化させる最大の要因である事は確かです。LEANAUDIOを通して私はこの事を痛感し、最終的にMarkAudio製ドライバを使う事によってこの問題を大きく改善する事ができました。当ブログにはその経緯を克明に記録してありますので、ご興味のある方は過去記事をご覧くださいませ。

あ、そうそう、大事な事を忘れていました。
当然ですが、再生音量を上げると振動板振幅はダイレクトに増加し、従って低音の高調波歪みもダイレクトに増加します。必要以上に音量を上げる行為は音質面から見ても考え物です。アンプのボリュームを上げて行くと、音が全体的にザワツキ始めるのが分かると思います。これは、主に低域の歪みの増加によるものです。中高域の振動板振幅は元々非常に小さいため、音量を上げても歪みは低音に比べて遙かに小さいですからね。この事からも、低音の再生クオリティが音楽再生全体の印象(クオリティ)に大きく影響する事が実感できると思います。また、小さな音量で聞くニアフィールドリスニングは、この点でも明らかに有利です。

次回は市販2ウェイスピーカ(密閉型とバスレフ型)の歪み特性について書いてみますね。

オッタノシミニ!
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