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2013年08月31日 (土) | Edit |
前の記事の続きです。

前記事では、「ハイレゾリューションオーディオの研究 -西口敏行、電気通信大 情報システム研究科 博士(工学)の学位申請論文」という論文の実験結果についてご紹介しました。

そこでは、192kHz/24bitで生録音されたさまざまな音源を使って、21kHz以上の帯域の再生をON/OFFする事で、被験者が超高域の音を弁別できるかどうかをブラインドテストによって評価していました。その結果、特殊な条件(特殊なマイクで録音、琵琶音源のみ、長時間提示、36名中2名のみ弁別)を除いて、被験者が超高域を弁別している(聞き分けている)という有意な結果は得られませんでした。

この結果を見る限り、一般的に可聴帯域の上限と言われる20kHz以上の音成分が再生されても、リスナが(本実験では被験者に演奏家や音源制作者が含まれていたにも関わらず)それを弁別できるケースは非常に稀であろうと思われます。

しかし、音源のハイレゾ化は、可聴帯域の再生音にも影響するはずです。特にビット分解能は周波数には関係アリマセン。また、例えば40kHzでサンプリングした場合、10kHzの波形はたったの4サンプル点で表現されるのに対し、200kHzでサンプリングした場合は20サンプル点で表現されます。つまり、可聴帯域の音でも、より細かく記録されるという事です。前記事の実験では、全て192kHz/24bitの音源を使用し、超高域(21kHz以上)を受け持つ再生装置をON/OFFしていただけなので、このような効果を評価する事はできません。

実は、この論文では、前記事で紹介した実験1と実験2の後で、音源のフォーマットの影響についても実験しており、僕は見落としていました。今回は、その実験結果についてご紹介します。この実験結果は第4章「標本化フォーマットと可聴帯域内の音質」に書かれています。

標本化フォーマットと可聴帯域内の音質

実験条件
- 音源収録では、アナログ出力を3並列にして、48kHz/24bit192kHz/24bitDSDの三種のフォーマットで動作する3台のADCに接続
- ADCには機種とファームウェアが同一のものを使用
- 再生環境は実験1、2と同じだが、21kHz以上を受け持つスーパーツイータをOFFにしている
- 可聴帯域における3種のフォーマットのF特には全く差は見られない

被験者
- 音大生4名(30代男性1名、20代女性3名)、、音源の演奏に加わったバイオリニスト1名(30代女性)、録音技術者1名(30代男性)の計6名

音源
- 邦楽(箏、尺八)、ボサノバ(ギター、女性ボーカル)、「ピアノトリオ」(ピアノ、チェロ、バイオリン)の3種(ステレオ生録)
- マイクは通常の音楽録音用を使用(実験2に使った特殊マイクではない)
- 提示時間は約20~30秒

実験方法
- 微小な差の検出に適したペアテスト法を採用(フォーマットが異なるサンプルAとBから、AA、BB、AB、BAの4種の対をつくり、ランダムに提示し、被験者は音が同じか違うかを判定)
- 30分を1セッションとし、1セッションで24試行、セッション間に10~15分の休憩をはさみ、1日に3セッションを実施
- 各被験者は3日で計9セッションの実験に参加し、全ての比較条件(3フォーマット × 3音源)について24回繰り返し評価を行った

実験結果
- 最も高い正答率は66.7%であった
- 24試行の場合、有意水準5%で有意と判定されるには75%以上の正答率が必要
- 従って、今回の結果からは被験者別に見ても、音源別に見ても、フォーマットの違いは有意に弁別されなかった(聞き分けられたとは言えない)

今回の結果からは「録音現場で標準的に使われる48kHz/24bitあれば十分ちゃう?」という事が伺えます。

しかし、今回の音源にCDフォーマット(44.1kHz/16bit)が含まれていない事は非常に残念です。16bitと24bitの違いは果たして有意に弁別できるのか?については、今回の実験からは何も言えません。現在の民生向け標準フォーマットであるCDフォーマットを改良する価値があるのかどうか?という肝心のところが不明です。

学会におけるこのようなハイレゾの研究では、超高域音を感知できるかどうか(あり/なしを弁別できるかどうか)に焦点が置かれます。また結論も、否定的なものもあれば肯定的なものもあります。言い換えれば、それくらい違いは微小で微妙あるという事です。これらはあくまでも学術的見地による研究です。

しかし、現場現実現物主義の血みどろの民生向け開発者的観点からは、「それによって世のヒトビトがより豊かに音楽を楽しめるようになるのか?」「リソースやコストのの増加に対して、その効果は釣り合うのか?」「総合的に見てそれはヒトビトに真に恩恵をもたらすのか?」という観点からの評価が最終的に最重要であると思います。ScienceとEngineeringでは最終的観点が異なるという事です。

一方、商業的観点からは「高音質!」と謳ってビジネスチャンスを拡げたいのも理解できます(実際、ソースの情報量が多い事に偽りはないですからね)。しかし、そのへんのバランスを適正に保つには、真っ当なヂャナリズムの働きが必要です。イヤホンマニ。ゼッタイニ。例えば写真業界では、一時期の行き過ぎた高画素数化競争(これもハイレゾ化ですね)に対して、各誌がこぞって否定的な見解を述べ、実際にそのような動向は抑制されました。最近は知らんけど。。。

また、現在配布されているハイレゾ媒体がどのように制作されているのかについても注意が必要です。例えば、CD盤の元になった48kHz/24bitのデジタルマスタを単純に変換したものなのか、テープから最新機器を使ってリマスタリングして最先端のADCプロセスを適用したものなのかによって、CD盤との音質差は当然違ってくるでしょう。要は、「CD盤よりもハイレゾ盤の方が音質が良い」と実際に聞こえた場合でも、それが純粋にフォーマットのハイレゾ化によるものなのか、それともリマスタリング等の別の要因によるものなのかは分かりません。そのへんが曖昧にされていると言えるでしょう。

この影響を排除するため、この論文では市販の媒体を用いずに自ら生録した音源を使っていました。これは極めて正しい判断であると言えます。この結果を見る限り、ハイレゾ自体の主観的音楽再生音質に及ぼす影響は、超高域音の有無を含めて、極めて微小である(または殆ど無い)と言えるでしょう。

恐らく、僕が思うに、フォーマット自体よりも、録音エンジニアの技能やセンスおよび現場の録音機器/プロセスの技術的レベルの方が、リスナが感じる音質に対して遙かに大きな影響を持つでしょう。センスのない録音のハイレゾよりも、ハイセンスな録音の圧縮音源の方がずっと音楽を楽しめるはずです。

いずれにせよ、正しい本当の情報が消費者に行き渡る事と、消費者が賢く判断する事が重要です。それを助けるのがヂャナリズムです。短期的には商売の妨げになる事もあるでしょうが、長い目で見れば、業界が発展するには消費者に対して健全である事が何よりも重要です。これは衰退/縮小し続けていると言われる現状を見れば明らかでしょう。

最後に、著者の本研究全体に関する総合的な結論(第5章 結論)の結びの部分を掲載します。
ハイレゾ結論
学会(超高域は弁別できると主張するセンセも居る)および業界をおもんばかった結論のように見えます。

追記
原文には、実験結果以外にも貴重な技術的背景が記載されています。ゼヒゼヒご一読くださいませ。
ハイレゾリューションオーディオの研究 -西口敏行、電気通信大 情報システム研究科 博士(工学)の学位申請論文

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テーマ:オーディオ
ジャンル:趣味・実用
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