FC2ブログ
2012年11月17日 (土) | Edit |
今回はAcoustic Rsearch社のAR-3aという有名なスピーカのデータを基に、アコースティック サスペンション方式について考察を加えたいと思います。このスピーカの詳細については、「オーディオの足跡」さん(コチラ)と「ステレオの産業史」さん(コチラ)を参考にさせて頂きました。どちらのサイトも非常にレベルが高く、貴重な情報を掲載しています。ご存じなかった方は是非ご覧ください。

AR社が開発したアコースティック サスペンション方式のスピーカは、コンパクトでありながら大型なみの低音再生を可能とした当時としては革新的なスピーカであったとされます。この方式は1954年に発表され、アンプの大出力化によって低能率スピーカでも十分な音量が確保できるようになった事と、ステレオ方式の普及に伴い小型スピーカへの要求が強まった事から、その後の「スピーカの主流を征した」(ステレオの産業史)と言われます。

当然これは日本の各社にも影響を与え、DIATONEのDSシリーズやYAMAHAのNSシリーズ等、密閉型ブックシェルフ タイプが1960年代~1980年代まで市場に多く出回っていたようです(90年代になるとDIATONE DSシリーズでもバスレフ型が多くなります)。

今回は「オーディオの足跡」さんに掲載されていたAR-3aの特性図をネタに、アコースティック サスペンション方式について考察を加えたいと思います。

ar-3a(1).jpg
AR-3a 1966年発売 (1959年発売のAR-3の改良型)
30cmウーハを使った3Way方式です。小容積密閉型では内圧変動が大きいため、エンクロージャは相当頑丈に作られている事が写真からも見て取れます。内部は吸音材で満たされ、ユニットの取付方法等、気密性にも十分に配慮されていたとの事。その後の密閉型ブックシェルフ タイプの基本形ですね。外寸は356x635x292mm、容積は約45Lであったとの情報があります。大径ウーハを採用しながら異常にコンパクトであると言えるでしょう。カラヤンがモニタとして常用したとか、あのマイルスもオウチで愛用していたと言われます(まぁ、メーカの宣伝文句ですが)。

M-Davis-AR-3a-1971[1]
広告に使われた写真。1966年と言えばマイルスの絶頂期ですね。
正確さとカラーレーションの無さから多くのプロ音楽家に選ばれた、と書いてあります。宣伝文句ではありますが、おそらく本当でしょう。こういうスピーカは音楽が聴きやすいと思います。

特性データは「オーディオの足跡」さんから拝借しました。下はウーハのF特です。
ar-3a(2).jpg
50Hzを下まわる周波数まで特性がフラットである事がわかります。30Hz/-6dBですから尋常ではありません。通常、普通のドライバを単純に密閉箱に入れただけでは、このようにフラットな特性は得られません。にわかには信じ難く、いろいろネットでサーチしたところ、ユーザが計測したデータでも、掛け値なしにこの特性が得られている事がわかりました。LCR回路で特性を調整(イコライジング)しているのかな?とも疑いましたが、そのような情報は何処にもありませんでした。一体どのようにすれば、チッコイ密閉型でこのような特性が得られるのでしょうか?

という事で、いつものようにシミュレーションによる解析を試みました。ドライバにはFOSTEX製30cmウーハFW305Nのデータを使いました。このシミュレーション ソフトは、TSパラメータから自動的にお薦めの箱容積を計算してくれます。まずはその結果から。
305 SLD 232L
容積は232Lと巨大ですが、低域特性はフラットにはならず、200Hzくらいから緩やかに減衰する事がわかります。巨大な容積のおかげで共振周波数(f0)は35Hzと非常に低くなっています。このユニット自体の共振周波数(fs)は25Hzです。

AR-3aと同じ45Lにしてみました。
305 55g
前記事と同様、黄色が吸音材「なし」、色付きが吸音材「多め」です。数L しかなかった前記事に比べて容積が大きいせいか、吸音材の影響は大きくありません。肝心のF特ですが、とても実際のAR-3aには及びません。普通はこんなもんです。容積が小さいため、f0は約70Hzまで上昇しています。

AR-3aのような特性を実現するには、f0をもっと下げる必要があります。ネットをサーチしたところ、f0は40数Hzくらいだという情報が見つかりました。このような小容積でf0を下げるには、まず振動板を重くする必要があります。コンプライアンスを大きくしてもf0は下がりますが、シミュレーションでは値を10倍にしてもf0は大して変化しませんでした。

そこで、f0が約45Hzになるように、等価振動系質量を元の55gから130gまで増やしてみました。注: 振動系を重くすると能率は低下するはずですが、このシミュレーションでは能率値(93dB)を独立したパラメータで設定しているため、その影響を見る事はできません。
305 130a
これで実機に非常に近い特性が得られました。繰り返しますが、振動系が重くなると実際には能率(出力)が落ちますので注意してください。吸音材を多く入れると、通常の密閉型と同様にロールオフ部の出力が若干低下する事がわかります。つまり、このように低域まで伸びた特性は、専ら異常に低いf0に起因するものであり、吸音材はそれには直接関与しない(どころか逆に抑制する)と言えます。

アコースティック サスペンション方式の元々の狙いは、低音の調波歪みを低減する事にあったと言われます。上の図には振動板振幅も表示しています(紫が吸音材「多め」、黄色が吸音材「なし」)。これを見ると、吸音材を増やす事によってロールオフ周波数以下の振幅(従って歪み)を抑えられる事がわかります(出力が低下するのだからアタリマエですけど)。吸音材を大量に投入する1つの狙いは、この点にあるのかもしれません。

振動系が重いと能率は落ちます。このためAR-3aの能率値は、当時としては極めて低い86dBであったという情報があります。このため、メーカは25W/ch以上のアンプを推奨していた模様です。非力な真空管シングルアンプには駆動しきれないでしょう。ちなみにAR社がAR-3aと同年に発売した半導体アンプの出力は60W/ch(4Ω)でした(コチラ)。アコースティック サスペンション方式は半導体アンプの高出力化があってこそ可能になった方法と言えるでしょう。

ざっと見たところ、国産同クラスの密閉型ブックシェルフは、いかにも日本製という感じで中庸を狙い、ARほど過激な設定にはなっていません。次回は、60~80年代の国産密閉型ブックシェルフ スピーカについて書いて見ようかなぁ。。と考えています。面白く纏まったらね。。。

追記
マニアの間では未だに能率が重視され、90dBを超える高能率型がやたら珍重されますよね。90dB以下はスピーカではない!なんて言う方も居られます。この傾向は海外でも同じらしく、マークさんも彼らは第1にSPLの向上を望むと言ってました(ちょっと困り気味に)。これは僕にはとても不思議に思えます。今時、アンプの出力は全く十分に得られるわけですから、音楽再生において極めて重要な低域出力をフラットに確保できるのであれば、多少の効率の低下なんぞトータルの音楽再生クオリティで考えれば、大して重要ではなかろうと思います。例えば、デジタルで低域信号をブーストする場合、高域信号を相対的に減衰させて、全体的に下がった音量レベルをアンプのボリュームで補います。これはつまりスピーカの能率が低下したのと同じ事です。スピーカにLCR回路を組み込んで高域を相対的に減衰させる方法でも同じです。

高能率型スピーカから低能率型スピーカに交換した場合、普段と同じアンプ ボリューム位置では音が小さくて頼りなく聞こえるため、あるいはアンプのボリュームを普段よりもタクサン回さないとなかなか望みの音量にならないため、感覚的になんだか元気がないように感じられるのではないでしょうか(マニアはよく音が前にトバナイいう表現を使う)。ボリューム位置対音量の関係を同じにして比較したならば、そのような印象はかなり軽減されるのではないかと思います。ブラインドテストを行う際、試聴者に自由に音量調整してもらう場合は、この点に気を付ける必要があろうかと思います。

お役に立てたらクリックしてください。ランキングに参加してます にほんブログ村ランキング参加中
関連記事
テーマ:オーディオ
ジャンル:趣味・実用
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック