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2012年08月21日 (火) | Edit |
以前の記事では、レビューにおける計測データの必要性について書きましたが、今回はブラインドテストの必要性について考えて見ます。雑誌のレビュー記事については、今回が最終回になると思います。

人間の感覚に頼った評価を感応評価と呼びます。例えば、以前の記事で紹介した自動車の室内音の評価(参考記事)では、バイノーラル方式で多数の室内音サンプルを収録し、多数の評価者がヘッドフォンで再生音を聞きながら感応評価(ブラインドテスト)を行い、得られた膨大なデータから統計的手法に基づいて主観的感応値と客観的物理値の間の相関性を導出しています。

身近な感応評価の例としては「利き酒」やワインのテイスティングが挙げられます。これも、一般的にブラインド方式で行われます。このように、学術的な目的や、結果を公にする事を目的に行われる感応評価では、正確さと公正さを期すために、ブラインドテストを実施するのが常識です。これは、評者の先入観や思い込みによる影響(バイアス)を排除するためと、コンテスト等においては出品者と評価者間の利害関係がからんだ不正を防ぐ必要があるためです。感応評価において、公明正大な結果を得るには、ブラインドテストを実施する以外に方法はありません。オーディオ装置の感応評価においても当然です。

オヂオ分野では、先入観や思い込みによる影響を「プラセボ効果」とか「プラシーボ効果」と呼ぶ事が多いようですが、これは元々医療分野で使われる専門用語であり、「偽薬効果」を意味します。医者が何の薬効もない偽薬を「よく効くから」と偽って患者に投薬すると、患者には自覚症状だけでなく客観的に測定可能な症状の改善が現れる場合があると言われます。人間とは、それほど「思い込み」に左右されやすいという事です。偽薬効果の検証では、二重盲検法と呼ばれるブラインドテストが行われるのが普通です。これは患者だけでなく投薬する医者自身にも、それが偽薬かどうかを知らせないという方法です。現在のオヂオ趣味は、それはそれは、もう常識的にどう考えても超微妙なチガイに拘泥しておるわけですから、常識的にどう考えてもプラセボ効果が相当に影響しているはずです。この効果を排除して評価するには、ブラインドテストを実施するしかありません。

さて今回は、明治時代から開催されている全国新酒鑑評会(独立行政法人酒類総合研究所主催)について、ちょいと調べてみました。酒類総合研究所は国税庁醸造研究所の後進機関だそうです。お酒は貴重な税収源なので、国税庁が関係するんですね! 知りませんでした。
参考:
ウィキペディア「利き酒」
独立行政法人種ル総合研究所のホームページ

気付いた点をいくつか上げて見ます。

この鑑評会は歴史も長く、国の公的機関により全国規模で開催される唯一の日本酒鑑評会であるとの事です。このため、審査員には、地方公設醸造技術指導機関職員、国税庁鑑定企画官、国税局鑑定官室職員、酒類総合研究所職員というそうそうたるプロフェッショナルが名を連ねています。また、酒類総合研究所では、清酒に関する感応評価の専門家(清酒専門評価者)の育成と認定も行っています(コチラ)。清酒専門評価者とは「感覚の感受性が高く、清酒の香りや味の多様な特徴を評価するのに一貫して反復可能な能力を有している評価者で、清酒の官能評価の経験があるとともに、清酒の製造方法や貯蔵・熟成に関する知識を有している専門家」と規定しています。

この種の非常に繊細な感応評価においては、評価者のクオリティが何よりも重要となるのは当然です。上記の自動車室内音の評価でも、本格的な解析に進む前に、評価者の適性を統計的に評価しています。その結果、評価の反復性に問題のある者や、他から全くかけ離れた傾向を見せる者が数名見つかり、そのような評価者の結果はその後の本格的な解析作業から除外しています。。。やるたびに評価結果が異なる気まぐれな人や、他の人達から感覚や嗜好が極端に逸脱した個性的すぎる人は評価者として不適合だという事です。僕も評価に参加したのですが、僕自身の結果の反復性は非常に優秀で、傾向も極めて中庸でした。エヘン!。。。巷の自称オヂオ評論家達はどうなのでしょうか?一体誰によって適性が確認されているのでしょうか?全体どの程度信用して良いのでしょうかねぇ?

この鑑評会では、酸味、香味等、計測可能な客観的データも参考にしているようです。評価はあくまでも感応評価によるようですが、サンプルの並び順を決める(グループ分けする)ための参考にするとともに、製造者へのフィードバックとして活用しているとの事です。また、予備審査では、下のようなテンプレートを使って、評価項目を明確に統一しています。
sake.jpg
さすがに、国が自国の大切な文化である「酒」の振興を図るために開催しているだけあって、結構しっかりと運営されているのではないでしょうか。

さて、オーディオですが、客観的計測データとブラインドテストを異常なまでに忌み嫌う体質は、一体全体どうしてなのでしょうか? 僕には全く理解できません。何か正当な理由でもあるのでしょうか? 少なくともどちらかは真面目にやるべきでしょう。両方ともヤダッ!て、そらアカンでしょう。だだっ子ですか?。。現在の状況は、好き勝手言いたい放題やりたい放題でプラセボまみれの全くの魔境のように見えてしまいます(ナンタラ変えました!カンタラが変わりました!スゴイです!と言うだけ。。やたら高額だし)。これでは技術的にも市場的にも健全な発展を望めるわけがアリマセン。世間一般の人々が近寄らぬのも当然です。

また、今回は利き酒を例として取り上げましたが、玄人さんがオーディオ装置を評価するに際して、決して忘れてはならない、常に「ワキマエル」べき大前提があります。それは、「酒」はオリジナルの創造物であるのに対し、オーディオ装置は「オリジナルの創造物たる媒体に記録された音楽作品」を「再生」または「伝達」するための装置であるという事です。この根本的な相違点は、何時如何なる場合も、決して疎かにしてはならないはずです(玄人さんはね)。

またまた繰り返しますが、個人個人のオヂオマニアは、どう好き勝手してもOKです。それは個人的な「趣味」だからです。しかし、公に情報を発信し、一応権威として世の中の多くの人々に影響を与えるジャーナリズムがそうであっては決してならぬはずです。楽しければ何でも良いとは口が裂けても言えぬのが玄人さんの玄人さんたる所以であり責任ではないでしょうか。巷のオヂオマニアが個人のブログで「ナンタラ変えました!カンタラが変わりました!これはもうスゴイです!」と何の裏付けも何の検証も何の責任もなく発言するのとは立場が全く異なります。玄人さんは世の中に対して責任を負わなければなりません。少なくとも、その責任を認識していなければなりません。僕が小学生の頃、自動車雑誌を読み始めた頃、当然ですが、メーターがずらっと並んだスポーツタイプのモデルが大好きで(ギャランGTOとかセリカ1600GTね!)、それに対して玄人さんってのはツマラナクテ地味な事ばかりを繰り返しシツコク言う人達だと思いましたもん。

以上、ネタ切れたかな?

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テーマ:オーディオ
ジャンル:趣味・実用
2012年08月14日 (火) | Edit |
人間というのは、オナジ部分よりもチガウ部分に対して必要以上に敏感になる傾向にあるようです。冷静に見れば、大概の場合チガウ部分よりもオナジ部分の方が圧倒的に大きく、また、大概の場合オナジ部分/不変の部分にこそ最重要の本質があるにも関わらず、そのように大きくて重要で根本の部分にはナカナカ意識が向かわず、表層的で微視的なチガイばかりに意識が向かってしまうという事です。

例えば、宗教について考えてみます。例えばお釈迦様やイエス様が説かれた「教え」は不変でありヒトツであるはずです。しかし、彼らの死後、ちょっとした解釈のチガイによって多数の宗派へと分裂を繰り返し、互いにその相違点について激しく攻撃/非難し合ってきました。さらに言えば、何教であれ、それらは根源的には、全ての人間にとって普遍的/究極的に重要であるはずの「オナジモノ」にアプローチを試みるものであるはずなのに、アプローチ方法や解釈方法が異なるというだけで互いに相容れようとはしません。全ての宗教に共通する部分こそが最重要であるにもかかわらず。。。宗教だけでなくイデオロギー集団でも同じです。例えば日本赤軍の場合、矛盾や問題を抱えた資本主義への対抗が本来の目的であったであろうに、やはり多数のセクトへと分裂を繰り返し、セクト間の殺し合いにまで発展しました。彼らも最初は、資本主義の矛盾を打破して全ての人々が平等に幸せに暮らせる社会の実現を目指したはずです。

これらの行動も、一種の「手段の目的化」と言えるのではないでしょうか。人間は、注意しないと、ついつい本来の目的を忘れて手段が目的になってしまうという事です。

この「手段の目的化」即ち「本来の目的を疎かにした「違い」への執着」が多くの「闘争」を招いてきました。「違い」への執着は即ち他者との差別意識を先鋭化し、他者との差別意識は即ち競争意識を生じ、競争意識は即ち権力欲へと転化され、そこに「闘争」が生まれます。人間がもっと「同じ」ところに意識を向けるようになれば、どれだけ人間社会は平和になる事でしょうかねぇ。。。ホンマニ。。

と。以上は前置きです。

オーディオの場合、最も重要であるのは、そこに記録されている不変の内容(音楽家の表現/行為)である事に異論を挟む余地はないでしょう。徒に表層的で微視的な「音」のチガイにばかり意識が向かうあまりに、最重要の「内容」の「全体」を「総合的」により良い状態でリスナの耳に伝達するという本来の目的が疎かにされては絶対になりませぬ。

「チガイ」に過剰に拘泥/執着すると、キリの無い無限地獄へと陥ります。「何を変えても音は変わる」とよく言われますが、そのうち、同じモデルさらには同じ部品(例えばコンデンサ)の個体差にまで云々しかねないように思えます(セクタの分裂が進めば最終的に個人間の闘争に帰結するのとオナジ)。「チガイ」を意識すればするほど、チガイは益々細分化され、チガイは益々大きく重要に感じられ、意識は益々チガイの虜になってしまいます(地獄のループ)。そして「チガイ」しか見えなくなり本来の目的を忘れる。。。それが人間の性なのでしょうかねぇ。。

無限地獄を避けるために重要なのは、「本来の目的」は何なのかを常に念頭に置き、その「チガイ」が、「本来の目的達成」に向けて、「総合的」に見て、どの程度「大きいのか?」「重要なのか?」という観点を常に持つ事です。「オナジ」部分の大きさに対して「チガウ」部分の大きさはどの程度なのか? そのチガイは全体に対してどの程度影響し重要なのか? という観点を常に持たなければ、無限の泥沼に足を踏み入れる事は必至です。さらに、オーディオの場合、そこに不確定要素(体調/気分/環境条件の変動とプラセボ効果)が確実かつ多大に影響するため、問題はさらに泥沼化します。

ただし、末端ユーザが「チガイ」への拘りを「趣味」として楽しむ分には全く問題はありません。鉄道マニアだってそうですよね。

しかし、「趣味道楽」のための道具ではなく「音楽芸術の伝達装置」を本来の目的とするオーディオ装置を職業として扱う業界の玄人さん達(製造者や評論家)は、安易にそうであってはならないはずです。

カンタラを変えたらナンタラカンが「変わり」ました!これは凄いです! という時、その「凄い」という「チガイ」の「大きさ」が「全体」に与える影響はどの程度大きいのか? そこにどの程度の不確定要素(条件変化、プラセボ効果等)が影響しているのか?(本来ブラインド評価が基本です、断じて絶対に!)、音楽家の表現/行為の結果をより良く伝達する上でその「チガイ」は如何ほど重要なのか?????? 玄人さんとして冷静に判断する必要があるという事です。

玄人さんであるべきヒヨロンカは、そのへんを高い見識を持って冷静に評価/判断した上で記事を書くべきでしょう。「チガイ」ばかりに注目して徒に喧伝するのではなく「全体に対する影響の大きさ/重要さ/不確定要素(条件変化、プラセボ等)」を正しく判断して伝える必要があるという事です。二者間の相対的な相違ばかりに目を向けるのではなく、常に絶対的な観点も持つ必要があります。それがプロというものでしょう。以前にも書きましたが、絶対基準を持たぬ徒に感覚的/微視的な相対的比較を繰り返すと、富士の樹海を永遠に彷徨い続ける事になります。

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テーマ:オーディオ
ジャンル:趣味・実用
2012年08月11日 (土) | Edit |
シリーズ最終回です。今回は、源信号波形とスピーカ出力音響波形の比較による、主として超低域の再生能力の評価方法について考えてみます。

スピーカによる音楽再生において最も困難なのが低音再生であり、スピーカであれアンプであれ、この領域の再生能力に比較的顕著な差が現れると思われます。100Hz以上の帯域では、常識的なレベルで真っ当に作られた装置であれば、安価であっても実用的に十分なクオリティの音楽再生を達成しているでしょう。如何に高額なハイエンド装置であっても、この帯域では、実用的な音楽再生性能における差異は微小であり、もはや単なる好み(オンガクセー、ナンタラカン)の問題と言って良いレベルにあるように思えます。100Hz以上の領域において、高額な装置でナンタラカンの好み以外のアドバンテージが見られるとすれば、さして必要とは思えぬ超音波領域の再生能力と、一般家庭ではとても現実的とは思えぬようなPA級の爆音再生能力くらいではないでしょうか。

以下で紹介する計測は、僕が実用的音楽再生における下限周波数と考える40Hzでのスピーカ音響出力を評価対象としています。30~80Hzの範囲の複数の周波数で評価しても良いでしょう。スピーカだけでなく、アンプの評価においてもスピーカからの音響出力に基づいて評価を行います。アンプとはスピーカを実際に駆動して音を出してナンボのものであり、固定抵抗負荷でアンプ単体の性能を計測したとて余り意味は無いと考えるためです。

以下の評価は、異なる機種を同一条件で評価するために、例えば基準信号(ホワイトノイズ等)を再生した時に500Hz~5kHzの平均音圧レベルが同じになるようにアンプのボリュームを調整した後に実施する必要があります。

1) 40Hzの定常正弦波波形
例えばアンプに40Hz/-6dBの定常正弦波信号を入力し、ウーハー前方に設置したマイクロフォンで波形の歪みを評価します。

まずは、同一のアンプ(NuForce Icon AMP)を使ったスピーカ比較の例です。
sine_20120811045720.jpg
僕の実用最大ボリューム近辺で計測した結果です。黒がAlpair6Mx2本(またはDayton 13cmウーハー1本相当)の40Hz再生波形です。3次の高調波歪みが顕著に見られます。これくらい歪むと耳でもはっきりと分かります。赤と青はAlpair10の結果です。音量を上げても良好な波形が保たれている事がわかります。このように、スピーカによって超低域の再生能力がはっきりと異なります。

次は、同じスピーカ(Alpair 6M)を使ってアンプの低音再生能力を比較した例です。
ICON 40 copy copy
上からNuForce Icon AMP(24W/4Ω)、ONKYO F-905FX(60W/4Ω)、TU870R改(2W/8Ω)です。歪みはIconが最も少なく、TU870Rがもっとも多い事がわかります。また、ONKYOの方がICONよりも定格出力が高いにもかかわらず、スピーカの低域駆動性能はIconよりも劣る事が分かります。この他のテストでも、小さくて安価なIcon AMPのスピーカ駆動性能は極めて高い事が判明しています。

小出力の真空管アンプでは、このような超低音の正確な再生は難しいようです。ただし、このような低音再生においては、高調波成分が多い方がかえって量感(音の大きさ)が豊かに聞こえるという現象が生じると思われます。なぜならば、低音領域では、周波数が低いほど人間の聴覚の感度が低下するためです(低い周波数成分は聞こえにくい)。ただし高調波歪みが多いと、本物のズシンと重い低音は聞こえません。「良質な低音は静かだ」と言われるのはこのためです。ちなみに、超低音域の再生クオリティに優れるAlpair10の場合、30Hzの正弦波を再生すると、振動板がブリブリ動いているのが見えるのに音は殆ど聞こえません。なんか不思議な感じ。。。

定常評価は、波形を観測しなくとも、FFT解析によって歪み率何%、位相シフト何度という数値を簡単に導き出せます。しかし、開発屋としての経験から、波形を視覚的に観察する事は、フィーリングやインスピレーションを得る上で極めて重要であると僕は考えます。

2) 低音の過渡挙動
バスドラやピチカートベース等の低音ビートの再生クオリティは、上記の定常波形だけでは評価できません。また、バスレフ型の場合、定常波形は極めて良好に見えるのですが、そのような急激な過渡信号の再生時に波形が大きく崩れます。

下は、40Hzの正弦波が急激に始まって急激に終わる場合のスピーカ再生音響波形です(Alpair 6M)。
波形の始まり
40Hz始め
波形の終わり
40Hz 終わり
グレーがソース信号です。いきなりマイナスピークから始まって、いきなりプラスピークで終わります。
緑がNuForce Icon AMP、青がNuForce IA7E、赤が業務用アンプのClassic Pro CP400です。ここでもIcon AMPが最も位相遅れが少なく良好な追従性を見せています。20万円を超えるハイエンドのIA7Eは100W以上、CP400は100Wです。業務用のCP400はダンピングファクタ200をカタログに掲げ、IA7Eも高DFを謳っています。しかし、定格たった24WのIcon AMPが最も良好な挙動を示しているのは驚きに値します。このようにカタログ「データ」はあまり当てにはなりません。実際にスピーカを駆動してみてナンボのモンというのはそういう事です。

ちなみに、FrieveAudioで位相遅れと周波数特性を補正すると下図のようになります(Alpair6Mフル馬鹿ブースト、アンプはIcon)。上の図とは極性が反転しているので注意してください。
40 パルス 始め 補正
40 パルス 終わり 補正
青が補正なし、赤が補正ありです。補正をONにすると立ち上がり/立ち下がりともに源信号に忠実に追従する事が分かります。実はこれは音楽再生において夢のような事なんですよ。。。それがたったの3200YENのソフトでできちゃうのに、どして未だに注目されないのか???どして未だにバスレフなのか??不思議です。ホンマニ。。。ナンデヤネン。。。

例えば、凄まじい電源装置を備えた超ハイエンド アンプはIconAMPを遙かに凌ぐような優れたスピーカ駆動力を発揮するのかどうか、また、その効果を明らかに体感するには一体全体どの程度の再生音量が必要なのか、その音量は一般家庭での使用において現実的なレベルなのかどうか、このような計測を行えば一発で分かるはずです。

3) 低音以外の波形観測
低音以外でも、スピーカの音響出力と源信号波形(楽曲データまたは生成波形)を比較する事によって、再生クオリティを明確に視覚化できます。

下は何度か紹介したベース(ロンさん)とトランペット(マイルス)が重なった部分の波形です。スピーカはAlpair6MアンプはIconです。グレーが源信号、赤が実測音響波形です

FrieveAudio補正なし
位相 OFF OFF

FrieveAudio補正ON
位相 ON ON

ヘッドフォン
ヘッドフォン

このように、スピーカ再生波形と楽曲の源信号波形を比べる事により、再生クオリティを明確に視覚化できます。例えば、位相的にかなりの問題を抱えると思われる一般的なマルチウェイ/バスレフ型スピーカがどの程度正確に楽曲の波形を再生できているのか、非常に興味深いところではあります。

下は生成波形による高音域の比較です。
5kHzの正弦波の一部を間引く事により、ピークからピークへ一気に変化する波形を2箇所挿入しています。これはCDデータで表現できる最も高速な信号変化に相当します。

wave copy
グレーが源信号。各点はソースのサンプリング点です(レートは44.1kHz)。赤がIA7E、青がICON、Alpair6Mからの再生音響波形です(オシロのサンプリング周波数は48kHz)。このデータでは、アンプによる差は全く見られません。このような高音域を解析するには、オシロのサンプリングレートをもっと上げる必要があるかもしれません。

まとめ
以上のように、システムの入力である源信号波形と、システムの出力であるスピーカの音響波形を比較する事により、多くの貴重な情報が得られます。ハサミとデータは使いようっちゅうやつです。今回のような計測は毎回行う必要はありませんが、このようなアプローチを重ねる事により、音楽再生技術に関する読者の理解を深める事ができるでしょう。機械イヂリ趣味である以上、そのような知識を読者に地道に提供し続ける必要があります。さもなくば、徒に表層的/感覚的/微視的なプラシーボの魔境への傾倒から脱する事はできぬでしょう。

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テーマ:オーディオ
ジャンル:趣味・実用
2012年08月04日 (土) | Edit |
今回はレビュー記事に役立つと思われる計測データについて書いてみます。

もちろんデータが全てでは決してありません。しかし、データを「正しく」活用すれば、読者により多くのより精度の高い客観的判断材料を提供する事ができます。また、現象のメカニズム(理屈)に関する理解を深める事ができるため、その先のさらなる改善のヒントともなります。これらのデータはユーザのみならず、製造業者にとっても貴重な情報となるでしょう。当然ですが、誌面では、それらのデータを「正しく」解釈するための「知識」を読者に繰り返し提供しなければなりません。データを扱うにはいかなる場合も慎重な配慮が必要です。「正しく」扱わないと、全く逆効果になってしまう可能性すらあるからです。データを「正しく」活かそうとする努力を怠り、「データでは音が伝わらない」などと安易に片付けてしまう体質は、工業製品を扱う機械イヂリ趣味を対象とする雑誌として、早急に改善すべきであると思います。このような体質が魔境化の大きな一因となり(だって、何の裏付けもなく言いたい放題でやたら高価でしょう)、多くの人々に胡散臭さを感じさせて門戸を狭め、ひいてはオーディオ趣味の衰退を招いているように僕には思えます。

前回はバイノーラル録音データの添付について提案しました。試聴条件を厳密に揃えた上で、優れた資質と的確な表現力を持つ評者のコメント(ブラインドが好ましい)とバイノーラル録音データを組み合わせれば、かなり有用な情報を読者に伝えられると思いますが、今回は、それらを補足する情報として、どのような計測データが役立つのか、僕が実際に計測したデータを例として挙げながら、考えてみます。

1) リスニング環境
製品の評価を行うに際して、可能な限り条件を揃えるべきなのは当然です。でないとデータのみならずそのレビュー記事そのものの意味は大きく損なわれてしまいます。特にスピーカの位置とリスニング位置は大きく影響するため、毎回できるだけ正確に条件を揃える必要があるでしょう。そして、そのような標準位置で計測した部屋自体の周波数特性を毎回必ず掲示すべきであると思います。これは、20Hzまで完全にフラットに再生できる密閉型ウーハー(FrieveAudioで完全フラットに補正)を音源に使って計測できます。ディップやピークだらけの状態では、また、毎回設置位置やリスニング位置が異なるようでは、読者に正しくその製品の特徴を伝える事などできるわけがありません。「その場その時に聞いた」印象を伝えるのが目的ではなく、その製品本来の特徴を読者に伝える事がレビューの目的であるはずです。再三申しているように、音楽再生において部屋の影響は絶大であり、ユーザの部屋の環境はそれこそ千差万別であるという大前提を念頭に置いてレビューを作成すべきであるという事です。でなければ、それらの記事は単なる読み物に過ぎぬでしょう。

603_20120804063707.jpg
上図は、現在のZAP BASSの位置に置いた密閉型13cmウーハをFrieveAudioで20Hzまでフラットに補正し、これを音源として計測した部屋の特性です。青が補正済み13cmウーハの前方約20cmでの特性(20Hzまでほぼフラット)、赤が部屋の中央のやや後方で計測した結果(距離約1.4m)です。100~50Hzでディップ、50Hz以下でゲインが発生しています。僕の部屋(狭い部屋に大量の本と簡易ベッドを詰め込んでいるのでかなりデッド)の計測結果では、部屋の中央より前寄りで聞かない限り、まず例外なくこのような約±12dB程度の顕著なディップとゲインが発生します。同じ部屋であっても、スピーカの設置場所を変えると、ディップとピークの発生周波数も変化します(コーナー設置のTONO君では250Hzにディップ、70Hzにピークが発生)。また、位置関係を相似のまま部屋を大きくすると、ピーク/ディップ周波数は低周波側へ移動します。

100Hz以下の定在波は、本格的な無響室でもない限り、大きくは改善できません。試聴室においては、このようなピーク/ディップが極力発生しない位置関係を選定し、全ての製品の評価を同じ位置関係で行うべきでしょう。最大限の努力を払っても除去しきれなかったピーク/ディップを試聴時にデジタルイコライザで補正すべきかどうかの判断も必要かと思われます(スピーカの特性補正ではなく、部屋だけの特性補正)。

製品の特徴が表れやすように部屋はデッド傾向がよろしいかと思います。基本的に、その場その時に評者の主観的「良い音」で鳴らす事が目的ではなく、製品の特徴を読者に伝える事が目的であるという事を常に念頭におく必要があるでしょう。でないと単なる読み物になります。

部屋のサイズも製品クラスに応じて変更できると良いかもしれません。通常、部屋が小さいほどピーク/ディップが発生する周波数は高くなる傾向にあります。このため、低域特性が伸びていない小型スピーカの場合、広い部屋では低音不足に聞こえても、狭い部屋では部屋による低音ゲインのおかげで丁度良く聞こえる等の現象が生じると思われます。たとえば、上図のような特性の部屋では、50Hzまフラットな密閉型スピーカでほぼ30Hzまでフラットな特性が得られます(ディップはイコライザで補正する必要あり)。逆に、30Hzまでフラットに特性が伸びた大型スピーカをこのような部屋で使うと、50Hz以下の超低音が過多となるでしょう。このように、スピーカは部屋の影響をもろに被ります。その意味でも、スピーカ位置と試聴位置を慎重に選択し、全ての評価でこの位置関係を可能な限り一定とした上で、試聴環境の特性を公表する事は極めて重要であると言えます。

また、温度と湿度はスピーカの振動板の物理特性に大きく影響するでしょうから、エアコンディショニングは年間を通して必須です。当然ですが、暗騒音も時間帯や季節によって変化があってはなりません。微小なオンシツの差や印象など、これらの環境条件の変動に完全に埋もれてしまうでしょう。

2)スピーカの周波数特性
オーディオシステムの評価において周波数特性は最重要です。何度でも言いますが、非常に安価な電気回路でも音楽再生には必要十分な周波数特性、S/N、歪特性を達成できている現代において、音楽再生に最も強く影響するのはスピーカと部屋の周波数特性です。部屋の特性は主に500Hz以下の低音領域で支配的となりますが、スピーカの特性は主に中域(500Hz~5kHzくらいかな?)の印象に強く影響するように思われます。3dB程度の差でも随分印象が変わります。評者の主観的コメントとこの領域の周波数特性曲線の形状を照らし合わせて見れば、かなり強い相関性が見られるでしょう。周波数特性は、読者がそのスピーカのキャラクタを伺い知る上で最も有用な不可欠の情報であると言えます。

616_20120802075734.jpg
黒: Alpair 5(メタル)、赤: 6M(メタル)、緑:6P(紙)の比較(2.5L密閉箱、距離20cmで計測)
振動板の材質は5と6Mがメタルで6Pが紙ですが、200Hz~10kHzのF特は5と6Pが極めて類似しているため、材質が異なるにも関わらず、両者の音には非常に近い印象を受けました。これに対し、6MはF特形状が異なるため、他から明らかに異質に聞こえて驚かされました。このように、スピーカの中域の周波数特性は大きく音の印象に影響します。F特差に比べれば、振動板材質差による印象の違いは非常に微小に感じられました。人間の聴覚は約1~5kHzで最も感度が高くなるため、この音域の差は特に大きく感じられるのではないでしょうか。

計測は、そのスピーカ自体の特性を見るための近接測定(できれば無響室が理想的)と実際のリスニング位置で行うべきでしょう。メーカの公表値や特性グラフは条件が不明であるため何の役にも立たぬと考えた方が良いと思います。また、上で書いたように、読者の実使用環境に合わせるために、スピーカのサイズに応じて異なるサイズの試聴室を用意できると理想的でしょう。

以上の周波数特性(リスニング位置の部屋の特性、リスニング位置のスピーカの特性)は、全ての試聴記事に添付すべき必須データであると言えます(たとえアンプやプレーヤの評価記事であっても常に必須です)。

今回は、ここまで。。。。次回は、スピーカだけでなくアンプの評価にも使える主に超低域の波形観察(定常歪みと動的挙動)について書きます。

追記
僕は水虫君とは殆ど無縁なのですが、ジムで貰ったと思われる足の小指にできた小さな水虫君から質の悪いばい菌君が入ってしまったみたいで、数日前からリンパ腺が酷く腫れ、全身に蕁麻疹が発生して、オシゴトも半ば休業中です。どういうわけか両手両足が腫れ上がってしまい、キーボードも打ちずらい状態が続いています。お医者で点滴と注射をしてもらったのですが、なかなか改善の兆しが見られません。トホホです。痒いし痛いし怠いし。。。最近ジムでアホみたいに毎日泳いでいたため、皮膚が水でふやけて菌が侵入しやすくなったのではないかと、お医者さんは言ってました。同じような症例は結構多いそうです。小さな水虫君でも侮れませんね。ホンマニ。。。当分水泳は禁止です。最近スピードを上げるコツを掴んだのに残念です。。

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