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2010年10月22日 (金) | Edit |
さて、何らかの方法でコンサートホール特等席の正確な音場を再現できたとして、果たしてそれで楽しくオウチで音楽が聴けるのでしょうか?

先に言っておきますが、僕個人は自分の部屋で再生音楽を鑑賞するに際して、音場感や臨場感を全くと言って良いほど重視しません。未だかつて、それが重要だと感じた事は一度もありません。逆に過剰に演出された音場感や臨場感には嫌悪すら感じます(だって、音楽が聴きにくくなるんだもん。。)。

3. 再生音楽における「音場感」について
そもそも僕は「再生音楽」を「生演奏の再現」を目的とするものとは全く考えていません。「再生音楽ソースとは自宅でスピーカーから発音して音楽を楽しむ事を前提とし、それに合わせて最適に録音された媒体である」というのが基本的な考え方です。原理的に無理なのを承知で何故ライブの音場(往々にして諸々の現実的制約から理想的な音響条件とは言えない状態)をわざわざ「再現」しなければならないのか全く理解できません。

演奏会場で聴いている場合は、目の前の絢爛豪華なオーケストラ、隣席の普段よりも入念に化粧して着飾った妻(息子が産まれて以来行ってないなぁぁ。。)、人々のざわめき、ご婦人方の香水の香り、休憩中に飲んだワインの心地よい酔い等々、聴覚だけでなく視覚や臭覚を含めて全身でその場の雰囲気を楽しむことができます(反面、だらしなくリラックスできないという欠点もあります。隣席の妻にチャントシナサイとしょっちゅう叱られた)。これに対し、再生音楽を聴く場合は専ら聴覚に頼らざるを得ません。また音響的な環境もコンサートホールとウサギ小屋では全く異なります。物理的、心理的、音響的に条件が余りにも異なり過ぎると言えます。演奏会ではホールの響きを心地よく感じたとしても、専ら聴覚に頼らざるを得ない再生音楽を、音響特性も全く異なり、雑多な物であふれかえる自分の部屋で聴く場合にも同じように心地よく感じるのでしょうか?。僕ならば再生音楽を聴く場合には、ライブの時よりも音楽そのものの音響クオリティの高さ(言いかえれば音楽の聴きやすさ)を重視します。だって「聴く」事しかできないんだもん。

例えば、臨場感とか音場感とかを重視するために、フルオーケストラをバイノーラル録音または2本マイク式ステレオ録音する場合について考えてみます。
この場合、たった2本のマイクで全ての楽器の音を明確に捉えなければならず、また個々の楽器音のバランスを調整する事もできません。ですから音響的に理想的なホールを選び、全ての楽器の音が最も理想的に聞こえる座席位置で録音する必要があります(果たしてそのような席は存在するのか?)。また、直接音に対して反響音の成分が増えるため、楽器音が相対的に聴きづらくなります。その場で生で聴く場合には、目の前にオーケストラが居て、視覚で指揮者なり興味のある楽器と奏者に意識の焦点を合わせる(演奏を目で追う)事ができますが、再生音楽では専ら聴覚に頼らざるを得ません。つまり、聴覚でしか楽しむ事ができない再生音楽では、その他の感覚も動員して体験するライブよりもトータルの情報量が少なくなります。これを補うために、反響音を控えめにして楽器音の細部を明瞭に録音した方が、オウチでは音楽をより楽しめるのではないかと思います(だからこそマルチトラック録音が多くの場合採用されるんですよね)。

録音時に近接配置した多数のマイクで収録して慎重にミクスダウンするという非常に手間がかかる手法を敢えて使用するのは、「オウチでスピーカーで再生した時により音楽が楽しめますように」という製作側のアリガターイ配慮です。「音場感」なり「音場再現性」を過剰に重視する余りに、再生音楽ならではの聴きやすさや生では得られない音響クオリティの高さを損なってしまうというのは、ハチマルとしては全く納得しかねますですネ。

で、ハチマル的結論としては
オウチで音楽聴くには、マルチトラックで録音して2chへミクスダウンする現在主流のステレオ録音方式で十分
というところですね。。。モノラルでもOKよ。
ただし
DSPでホールの反響とかの変なエコーを追加しないでネ
を付け加えたいと思います。

追記
もし現在もモノラル方式しかなかったとしたら。。。人々はオウチで音楽を聴くに際してそんなにホールの反響とか臨場感とかを重要だと思うんだろうか? そもそもステレオ方式はモノラル方式を2つ並べてテキトーに音を右と左に振り分けた程度のものに過ぎないワケで、たいして事情は変わらないと思うんだけど。

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2010年10月22日 (金) | Edit |
今回はバイノーラル方式について。

2. バイノーラル方式
音場の「再現性」という観点では、バイノーラル方式はステレオフォニック方式に比べて理論的にマトモでビューティフルな方式に思えます。実はステレオ方式よりもバイノーラル方式の方が先に提唱されたというのも頷けます(ステレオ方式は原理的にメチャクチャ エーカゲンで「再現」手法とは言い難い)。このため、正確な音場再現性が求められる研究開発分野ではバイノーラル録音が多く使用されます(自動車分野での適用事例はコチラ)。

下図に録音原理を示します。
612.jpg
この方式では、人間の頭部と肩部形状を模したダミーヘッド(マネキンの頭部)を使用します。マイクは両耳の位置に取り付けます。一般的な小型マイクを頭部の両側面に単純に取り付けるシンプルなものや、外耳道までリアルに再現して内部にマイクを埋め込むものなど、様々なタイプが存在します。当然ですが、耳タブや肩の影響も再現できる形状に設計されています(頭部だけのもある)。
614.jpg
前の記事にも書きましたが、人間はこれらの形状の影響を受けた音を左右の耳で聞き分ける事によって、音の方向を立体的に捉える事ができると言われています。ダミーヘッドを使用する事により、それらの影響を受けた耳位置の音をソックリソノママ録音してしまおうというのが、この方式の狙いです。

下図が再生原理です。
613.jpg
再生にはヘッドフォンまたはイヤフォンを使用します。耳位置で録音した音を、そのまま耳位置で再生するので、再生場(リスニングルーム)の影響を全く受けません。録音された時の耳位置での全方位の音(直接音も反響音も全て含む)をそのまま聴く事ができ、原理的には原音場を立体的に「再現」できます。細かい点ではまだまだ問題もあるのでしょうが、音場再現を目的とするのであれば、ステレオフォニックやサラウンド方式よりもずっと理に適った現実的な方法だと思います。

さてさて、音場の再現手法について長々と書いてきましたが、ではでは、一番肝心な「オウチで音楽を楽しむ」という目的において音場の再現性がそれほど重要なのでしょうか?

次回はそのへんについて考えてみます。

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2010年10月21日 (木) | Edit |
オーディオ愛好家の間では音場再現性が非常に重視されるように見受けられます。
そこで、音楽再生における音場の再現性について3回シリーズで書いてみたいと思います。

1.ステレオ方式
2. バイノーラル方式
3. 音場再現の必要性

という構成になると思います。

ということで、今回はステレオ方式について考察します。

1.ステレオフォニック(一般にステレオ)方式
実用的なステレオ方式がはじめて営業的に一般公開されたのはディズニー映画の「ファンタジア」(1940年)だそうです。その後まずハリウッド映画で普及し、ステレオ盤レコードが大量生産されるようになったのは1957年からだそうです(出典)。

下図はステレオ録音を模式的に示したものです。緑の楕円が複数の楽器で構成されたステージ上の楽団だと思ってください。簡略化のために、以降はこの楽団内で左寄りに配置されたトランペットだけを取り上げます。
610.jpg
ステージ前方に立った人間は、左右の耳の聞こえ方の違いによって、各楽器の方向を認識する事ができます。両耳の聞こえ方の違いは、両耳穴が横を向いている事、両耳穴間が離れている事、両耳穴の間に頭部が存在する事等によって発生します。さらに、頭部形状、耳たぶの形状、上半身(特に肩)の形状等による聞こえ方の違いから、左右だけでなく前後および上下の方向も認識できる(すなわち三次元的に音場を認識できる)と言われます。

ステレオ方式は専ら左右方向の聞こえ方の違いを表現するために発明された方式です。上図には2種類の録音方法を示しています。

最初の方法はステージの中央前方に2本のマイクを配置して録音する最もシンプルな方法です。現在の音楽ソースにおいて、このような方法が採られるのはクラシックの場合でも稀だそうです。適度な指向性を持つマイクロフォンを適度な角度で左右に開いて設置する事によって、その場に立った人間の左右耳の聞こえ方を簡易的に模倣しようというのが狙いです。単純に言うと、左寄りの音源の音は右側マイクよりも左側マイクの方に大きく録音されるという事です。マイクロフォンの指向性と配置角度によって左右の分離度も当然異なりますが、特に標準的な規格は定められていない模様です。また、人間の頭部形状等の影響を表現できないため、ヘッドフォンで再生してもバイノーラル方式のような立体感は得られません。この方式の場合、ホール壁面からの反響音も比較的多めに録音されるはずです。

2番目の方法は、ステージ上の各楽器の近くまたは楽団内部の各所に多数のマイクを設置するか、あるいは各楽器を独立したブースで録音して、後で2chへミキシングする方法です。ほとんどの音楽ソースがこのような録音方式を採用しているようです。この場合、各マイクの音をコンソールで適当に左右チャンネルへ振り分ける事によって、人工的に音源を配置します。この場合、録音に含まれる反響音は上記に比べて少なくなり、各楽器の音が細部まで聞き取りやすくなるはずです。最近はデジタル信号処理(DSP)によってホールの反射を人工的に追加したりもされるようです(ホールの各壁面の距離/反射率等から遅延量/減衰量を計算し、これに基づいて直接音に対して遅延した人工的反射音(エコー)を追加する)。

いずれの場合も、特に定められた規格もなく、また基準となる原則もなく、音を左右に適当に振り分けているだけだと言えます。従って、録音ごとに条件もまちまちです。また、記録された内容には、左右方向のみの一次元的な音場(と言えるのか?)情報しか含まれません。

下図は、そのようにして録音された音を自分の部屋で再生している状態を示しています。
611.jpg
機械的手段(すなわち2本のマイクロフォンを使用)または電気的手段(すなわちミキシングコンソールを使用)を用いて振り分けられた左右の音を、前方に設置した2本のスピーカで再生します。スピーカからリスナの耳の間には、部屋の音響特性(反射、定在波)が介在し、従って実際にリスナの耳に届く「音場」も、これまた千差万別です。また、左側スピーカから出た音は右耳にも届きます(クロストークが発生する)。

この方式では、左右で同音量に録音された楽器は真正面に定位し、例えば左チャンネルだけに音が含まれる楽器は表現可能な音場?の左端に定位します。この時、その楽器は左側ツイーター位置に定位するはずです(その楽器は左スピーカーからのみ聞こえる = その位置に定位する)。つまり、音場は原理的に左右スピーカの間に展開される事になります。

部屋の反響特性によっては、音場がさらに左右に広がったり、あるいは上下に広がってすら聞こえるそうですが、これらは部屋+スピーカー+リスナーの条件によってタマタマ生じる音場感であって、ソースに含まれるものではありません(ソースには左右方向の情報しか含まれない)。ましてや原音場の「再現」と言えるものでは全くありません。

以上のように考えると、ステレオ方式は原理的に「音場を再現する」とはとても言えず「音場を模造する」あるいは「音場を演出する」という程度のものに過ぎない事が分かります。

これを改善する方法として、ホール内の特定位置を中心とする例えば半径1mの球面上に指向性マイクロフォンを多数配置し、再生時にはこれと同じように配置した多数のスピーカに囲まれた球の内部で聴くという方法が考えられます(1m以内の半径であれば部屋の影響も低く抑えられる)。この方式を大幅に簡略化したのが、マルチチャンネルのサラウンドシステムだと言えます(前後左右の二次元的音場再生)。ご存じのようにサラウンドもハリウッド発の技術ですね。

次回は、原理的にはもっとマトモに音場を「再現」できると考えられるバイノーラル方式について考察します。

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2010年10月19日 (火) | Edit |
前の記事の測定結果を計算で検証してみました。
計算ソフトウェアには以前にも紹介したStandwave2を使用しました(参考記事)。
ダウンロードはコチラ

下図がその設定画面です。
608.jpg
部屋の幅は作り付けクローゼット分を差し引いて3mとしています。このため僕の部屋は前後と左右の寸法がほぼ同じ正方形に近くなるため、音響的には良い状態とは言えません。各壁面の反射率は測定結果と比較しながら大まかに合わせ込みました。詳しいパラメータは図を拡大してご覧ください。なお、このソフトウェアは500Hz以下しか計算できません。(注意: デフォルトの反射率は部屋に家具類を置いていない空室状態を想定しているようなので、実測値に比べるとかなりライブな特性です。測定値と比べながら多少反射率を下げる事を推奨します。)

下図に140cm位置での測定結果と計算結果の比較を示します。測定には20Hzまでフラットな音響出力を使用したので、計算結果とそのまま比較する事ができます。
609.jpg
グラフの縦横のスケーリングを正確に合わせて測定結果と計算結果を重ね合わせてみました。赤が測定結果。黒が計算結果です。非常によく一致していると言えます。

この状態から部屋のサイズを左方、後方、上方に1m拡大した場合の計算結果を下に示します。スピーカとリスナの位置関係は変わりません。
606.jpg
部屋を後方に延長した場合に最も良い結果が得られそうです。この場合、部屋を縦長に使用して中央よりやや前寄りで聴いている状態になります。やっぱり広い部屋は良いですね。。

次に各壁面の反射率をゼロに設定して計算してみました。反射率をゼロにするのは現実的に不可能ですが、各壁面の影響の度合を見る事ができます。
607.jpg
この結果からは、後方の壁を吸音するのが最も効果的である事が分かります。しかし60Hz以下のゲインは部屋を大きくしない限りほとんど改善されないように見受けられます。

以上2つの結果を見る限りでは、後方の壁(すなわちスピーカーと対面する壁)の影響が大きいように見受けられます。この壁をできるだけスピーカーから遠ざける(部屋を縦長に使用して前寄りで聴く)か、吸音する(吸音は容易ではないので、ついたて等で斜めにする)と効果的かもしれません。ただし様々なパラメータが複雑に影響し合うため、この結論が全ての部屋に一般的に当てはまるとは限りません。全く逆の結論になる場合も十分に考えられます。ご興味のある方は、ソフトウェアをダウンロードして是非ご自分で試して見てください。使用方法は極めて簡単です。ダウンロードはコチラ

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2010年10月17日 (日) | Edit |
部屋の定在波の影響は「音楽の聴きやすさ」を阻害する大きな要因となります。

以前の記事でベッド位置での特性をお見せしましたが、今回は部屋の数カ所で測定してみました。
測定箇所を下図に示します。
600_20101017123648.jpg

今回は13cmウーハーだけを使用しました(測定位置が離れるとそれだけボリュームを上げねばならず、虎の子のAlpair5をあまりイヂメたくなかったのよ)。このウーハーは5kHz以上で出力が低下するため、測定データは5kHz以下だけを表示します。定在波の影響が顕著に表れるのは低域だけなので、目的上なんら問題はありません。

601_20101017124008.jpg
赤がウーハー前方20cmでの測定値(実はこの位置でも既に部屋の影響が見られます)。黒が補正後の出力です。20Hzまでほぼフラットな出力が得られています。今回はこのフラットな出力を用いて、部屋の各位置での応答を測定しました。

602_20101017124212.jpg
通常のリスニング位置よりやや後方の約80cmでの測定結果です。すでにかなり凸凹している事が分かります。約1kHzのディップは部屋の影響ではなくデスクトップの反射の影響です。通常この帯域はAlpair5に受け持たせていますが、Alpair5はウーハーより高い位置にあるため、通常の使用状態ではこれほど顕著なディップは発生しません。

603.jpg
上記から60cm後退した140cmでの結果です。100Hzを中心に大きく落ち込み、60Hz以下ではゲインが発生しています。

604.jpg
さらに60cm後退した200cmでの測定値です。基本的に140cmでの結果と大きく変わりません。100Hz前後の落ち込みはやや改善されますが、60Hz以下のゲインは逆にやや増加しています。

605.jpg
200cmの位置から左右に1m程度移動してみましたが、傾向はほとんど同じです。

今回の結果を見る限り、スピーカーからある程度以上離れると応答特性は場所によってあまり変化せず、部屋の形状でほぼ決まってしまうように見受けられます。

このような現象は、平行な壁面の間を音波が行ったり来たりして測定位置で互いに強めあったり弱めあったりして生じるワケですが、波長が部屋の寸法と同等以上となる低音域ではその影響が大きく出ます。何度も行ったり来たりした音を聴くことになるため、周波数ドメインだけでなくタイムドメイン的にも影響が出ます。これは周波数ドメイン的音場補正だけでは補正しきれません。

低音になるほど吸音は困難となり、一般的住居で効果的な吸音を施す事は極めて困難です(実験用無響室の壁面があのように巨大な凸凹で覆われているのはそのため)。オーディオルームを専用に設計するのであれば、平行面をなくす等の対応も取れますが、通常の住居ではそれも適いません。

最も手っ取り早いのは、とにかくスピーカーに近づいてできるだけ耳に届く直接音の割合を増やす事です。これがニアフィールドリスニングの最大の利点であり、すなわち音楽の聴きやすさを求めならば「スピーカーは小さくて近いに超した事はない」の所以です。

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