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2013年05月24日 (金) | Edit |
今回は、バスレフ型の低音歪みについての実験君結果をご紹介します。定常歪みだけでなく動的歪みも簡単に評価しました。

バスレフ型では、共鳴周波数で振動板振幅が非常に小さくなる(理論的にはゼロになる)ため、下限周波数における「定常」歪みに関しては密閉型+ブーストよりも大幅に有利です。

今回の実験君では、TONO箱(8L)のバスレフ仕様(共振f=60Hz、吸音材なし)とZAP(2.5Lポチ箱、密閉、吸音材大量)の低音歪みを比較してみました。ドライバは共にAlpair 6Mです。

部屋の影響を最小にするために、マイクは20cmの距離に置きました。周波数特性を正確に揃えるために、どちらもFrieveAudioで60Hzまでフラットにしています。密閉型の60Hzにおけるブースト量は約+9dBです。

音量は以前と同様に、下記のように設定しました。
1) 昼間の標準的ボリュームよりやや高め
標準ピンクノイズで約75dBC(リスニング位置)に設定。PCのボリューム目盛りは32/100
2) ご近所にビクビクしながらかなり頑張ったボリューム
標準ピンクノイズで約82dBC(リスニング位置)に設定。PCのボリューム目盛りは60/100

マイクロフォンを20cm位置に置いたため、グラフの絶対音圧レベルは以前のリスニング位置での計測結果と異なりますのでご注意ください。

それでは結果です。今回は4次および5次の歪みもプロットしています。グラフの色分けは下記の通りです。
Color.jpg

1)標準的音量
上が密閉、下がバスレフです。赤の%値は75dBを基準とする値です。
密閉75
バスレフ75
密閉型は最大ブースト点の60Hzをピークとして2次歪みが増加しますが、全く問題のないレベルです。バスレフ型の歪みは殆どフラットですね。

2)大音量
ドアを閉めていても奥さんから1発でレッドカードを喰らう音量です。PCのボリューム目盛りは1)の約2倍。
赤の%値は85dBAを基準としています。
密閉85
バスレフ85
当然どちらの歪みレベルも全体的に高くなりますが、傾向は1)と同じです。ブーストは60Hzまでなので、Alpair6 M最大の弱点である50Hz以下の3次歪みの急増は見られません。このため、このような大音量でも、以前のヘッドフォンによる聴感評価でガイドラインとして設定した基準(2次は5%以下、3次は2%以下(1%以下が好ましい)、4次以上は1%を大幅に下まわる事)になんとか収まっています。これらの歪みは、以前の記事に書いたように信号処理(メカトロ化すればコスト増殆どなし/ソフトで対処)または小径ウーハを2本プッシュプルで使えば(コスト増あり)大幅に改善できます。バスレフ型では、約150Hzに2次の特徴的なピークが見られますが、原因は分かりません。

下は60Hz/-12dB定常正弦波の再生音響波形です。音量は2)の条件と同じです。つまり2)のグラフの60Hzにおける波形と考えてください。
上が密閉型、下がバスレフ型です。
密閉 SINE
バスレフSINE
密閉型では、2次歪みの影響で波形が上下非対称になっていますが、バスレフ型では信号波形(グレー)と非常に良く一致しています。しかし、波形には明確に現れていませんが、このような大音量になるとバスレフ型ではポートの風切り音がハッキリと聞こえ、非常に耳障りです。聴感的には歪みの大きい密閉型の方が好ましく聞こえなくもありません。このように、バスレフ型の場合、高調波歪みは低くても、大音量ではポートの風切り音が問題となります。

下は、上の波形のFFT解析結果です。
上が密閉、下がバスレフ。
FFT密閉
FFTバスレフ 
バスレフ型の場合、高次の高調波成分が高くなっています。風切り音の影響かも知れません。

以上のように、バスレフ型の「定常」歪み特性は非常に優秀である事を確認できました。
しかし
音楽信号の周波数成分と振幅は極めてダイナミックに変化します。一時たりとも留まらぬ過渡現象の嵐であると言えましょう。従って、本当の歪みは動的に評価してみないと何とも言えません。

そこで、1サイクルの正弦波信号(60Hz/-12dB)を入力した時の音響波の挙動を調べてみました。音量設定は上記2)と同じ(大音量条件)です。以下の図には、信号波形をグレーで示しています。

上が密閉型、下がバスレフ型です。
過渡密閉
過渡バスレフ
密閉型の場合、信号に対して少し遅れますが、信号波形との対応は明確です。しかし、バスレフ型になると、音響波形の各ピークが信号のどのピークに対応するのか良く分からない程大きく変形して(従って歪んで)います。このように、バスレフ型は定常正弦波信号を非常に綺麗に出力しますが、過渡的な信号になると大きく崩れます。綺麗な定常波形がだいなしですね。

バスレフ型の波形を少し詳しく見て見ましょう。
最初に密閉型と同じ遅れで小さな振幅の波形が発生し、ほぼ1サイクル遅れて大きな振幅の波形が続いています。最初の小さな波形は振動板から直接放射される音、大きな波形はその後共鳴が起こってポートから放出される音だと思われます。

最初は無信号ですから、システム(ドライバ+箱内の空気)は全く共鳴していません。このため、振動板は信号通りに動いて音響波を発生し、システムが励起されて共鳴が始まります。その結果、1発目のピークよりも2発目のピークの方が振幅が大きくなっています。2発目の振動板の動きでさらにシステムが励起され、ポートからは3発目のさらに大振幅の音響波が放出されますが、その時点で振動板の運動はほぼ停止しています(信号が無くなる)。その後、放ったらかしにされた箱内の空気はダラダラと減衰しながら振動し、信号停止後も暫く音を放出します。。。と、いった現象が考えられます。あくまでも推測ですよ。

音楽信号は過渡現象の嵐ですから、音楽再生中にこれに近い現象がノベツクマナク発生していると考えられます。

LEANAUDIOの初期では、バスレフのチューニングに散々取り組みましたが、どうやってもバスレフ型で長く音楽を聴いているとだんだんイライラしてきて、ポートに詰め物をし始め、最終的に密閉型になってしまうという事を繰り返しました。これは、このような過渡現象の問題に由来するのかも知れません。僕はジャズを聴く際ピチカートベースを基準に聴く癖があるため、特に低音の過渡的問題には敏感なのかも知れません。

さらにバスレフ型は、ポート自体が共振音を発生し、箱内部の定在波音もポートから放出し、さらに大音量時には風切り音も生じると言った付帯音の多さも欠点として持ちます。これに関しては「音楽再生における付帯的音の現象 - データ編 その1 」で詳しく調べました。

最後にオマケとしてFrieveAudioの位相補正をONにしてみました。
過渡密閉 補正
位相の遅れは殆ど無くなります。しかし、実用状態での補正の効果は、僕には全く感じられません。密閉型では元々遅れが少ないからかも知れませんね。

今回の実験君結果は以上です。この後も、過渡挙動について追加の実験君を予定しています。オッタノシミニ!

追記
ブーストの下限周波数を欲張らずに同じドライバのバスレフ型と同等の周波数特性を達成するだけであれば、小さな密閉ブースト方式で十分に実用的な性能(歪み特性)が得られます。今回は8Lのバスレフ型に対して密閉型は2.5Lでしたが、以前の記事に書いたようにLEANAUDIO方式では箱容積の影響は小さいため、1L程度の箱でも結果は殆ど同じでしょう。バスレフ型の場合、共鳴周波数を保ったまま箱を小さくする事は困難です。1Lで60Hzなんか絶対無理ですから。商品性を高める上で、コンパクト化はトッテモ重要です。

再三申しているように、密閉型ブースト方式はシステムのコンパクト化に非常に有利であり、しかも動的挙動の面でも大きく優れている事がお分かり頂けたと思います。さらに、現象がシンプルである(音は振動板の運動に直接対応する)ため、電子制御による挙動の改善も容易です。メカトロ化により、そのポテンシャルはさらに大きく拡がるでしょう。

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2013年05月16日 (木) | Edit |
今回はSONYの最高級モニタヘッドフォンMDR-Z1000の歪み測定結果をご紹介します。

このヘッドフォンは、スタジオ向けのプロ用モニタヘッドフォンで高い実績を誇るSONYの最上級モデルであり、メーカは「スタジオユースでの厳しい要求に応えるリファレンススタジオモニター」と謳っています。業界標準器的なMDR-CD900STがスタジオでの録音現場で使われるのに対し、MDR-Z1000は最終的なマスタリング等での使用を想定しているとかイナイトカ。まぁ、とにかくZAPシステムを評価するための基準として全く不足は無いと言って良いでしょう。

計測方法は簡単です。左右のパッドをピッタリと合わせて、隙間からマイクロフォンを突っ込んだダケ。パッド同士を強く圧着させると低音レベルが上がるため、実際の装着時の状態からかけ離れぬよう、パッドを押さえる力は最小限としました。

下はMDR-Z1000での測定結果です。
HeadPhone copy

比較のために前の記事の「標準ボリューム+7dB」を再掲します。
ZAP 82dBC 60

音圧レベルは共に約75dB @40Hzです。図中の歪みレベル(%)を表す赤ラインは75dBを基準として計算しています。あくまでも約40Hz(約75dB)を基準とする参考値として考えてください。僕が実用的音楽再生の下限周波数と考える40Hz一点に限って言えば、耳位置で同じ音圧(75dB)で比べた場合、ZAP 2.1とMDR-Z1000の歪みレベルは全く同等であると言えます。

なお、どちらもマイク手持ちのエーカゲンな計測であるため、グラフの細かい凸凹は計測のたびに結構変化します。ただし全体的なレベルは何度計っても安定していますので、コマケー事は気にせずに大まかなレベルを見比べてください。今回の結果を大雑把に見る限り、ZAPシステムの低音歪み(リスニング位置)はモニタヘッドフォンに比べて遜色のないレベルにあると言って良さそうです。これは日頃普通に使っていて感じていた事でもあります。

データの信頼性が未だ良く掴めていないため、細かい事象について確たる事は言えませんが、下記の2点が注目点として挙げられます。
1)全体的にZAPは2次歪みが高いものの3次歪みは低い(これはAlpair 10に負うところが大きい)
- ヘッドフォンでは約40Hzまで3次歪みの方が2次歪みよりも高く、3次歪みは1%を超えている
2)ZAPでは2次の60Hzあたり(つまり120Hzあたり)に何らかの共振現象が生じている可能性がある
- 正弦波周波数を段階的に変化させながら観察すると、明らかに60Hz前後でスピーカボックス全体の振動が増加する事から、何らかの共振現象が生じていると考えられる。これがユニット単体による現象なのか、ボックスおよびスタンドを含めた全体的な現象なのかは今のところ不明。実用状態で特に問題を感じないが、2次歪みを大幅に改善できる可能性は十分にありそう。

まぁ、コマケー事は置いといて、ZAP 2.1君の低音歪み(リスニング位置)はプロ用モニタヘッドフォンに比べて遜色ないレベルにあるという事を確認できました。いとウレシ。。。次回はZAP馬鹿ブー君を評価してみます。オッタノシミニ!

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2012年12月30日 (日) | Edit |
GAMAの音量評価は今し方終了しました。ZAPも評価しようとしたところ、奥さんからレッドカードをくらってしまったので、こちらの結果は来年に持ち越しです。。。。

GAMAの結果はまだまとめ中なので、今回は評価条件を決めるための準備データをお見せします。以前データに誤りが見つかったので掲載を取りやめた記事の修正版です。

スタジオのモニタリングレベル(音量)てどのくらい? 」では、サラウンド方式においてモニタリング レベルを統一しようという動きがあった事を紹介しました。しかし、ステレオソースの場合、このへんは全く統一されておらず、同じ平均音量(例えば75dBA)で再生するには、ソース毎にアンプのボリュームを変更する必要があります。特にクラシック(オーケストラ)はダイナミックレンジが広いため信号の平均レベルが低く、一般的なジャズ/ロックのソースに比べてアンプのボリュームを相当上げる必要があります。特に超絶バスドラをレンジ一杯に収録した例の「春の祭典」では、他のクラシックソースよりも更に信号レベルが低くなっています。これとは反対に、コンプレッションを全体に効かせたと思われるマドンナのソースでは、一般的なジャズ/ロックよりもボリュームを絞る必要があります。

という事で、ステレオソースの3つのジャンルの楽曲のスペクトルを調べてみました。
図中、黄色の領域は聴覚の感度が比較的高い周波数領域(500Hz~4kHz)、グレーの直線は基準ピンクノイズ(-18dBFSrms)、赤の直線は平均的なソース信号レベルを示しています。
楽曲の最初と最後のイントロ部と無音部を除いたスペクトルを以下に示します。

ベト5第1楽章(ブロムシュテット盤)
beto5.jpg
平均レベルは基準信号に対して約-15dBです。

マイルスのハンドジャイブ
hand.jpg
平均レベルは基準信号に対して約-9dBです。ベトベンに対しては約+6dB。

マドンナのアメリカンライフ
american.jpg
平均レベルは基準信号に対して約-3dBというか殆ど同じです。ベトベンとマドンナでは実に12dB以上も異なります。

以上のように、一般的にクラシックのソースを聴く場合、同等の平均音量を得るにはジャズよりもアンプのボリュームを上げる必要があります。逆にマドンナのようなソースの場合、ジャズよりもアンプのボリュームを下げる必要があります。この事から、システムの再生可能音量を評価する場合、クラシックを基準に考えれば良さそうです。つまり、クラシックソースを十分な音量で再生できれば、他のソースは余裕で再生できるという事です。

これに従い、評価テストではベト5第1楽章を再生した際にリスニング位置において最大値(FASTフィルタ)が80dBAを超える事を目標としました。これにより、ほぼホール中央席あたりの音量を確保できる事になります。

同じベト5でも録音によってレベルが大きく異なるかもしれません。そこで、5枚持っているベト5のスペクトルを解析したところ、ブロムシュテット、フルトベングラ(モノラル)、チェリビダッケ(ライブ)、最近買った全集の中のやつ(指揮者知らない、今世紀の録音)は殆ど同じ信号レベルでした(半世紀近いスパンでホールも楽団も全く異なるにしては良く一致していると思います)。ただしカラヤンさんのだけ他に比べて約6dBも低くなっていました。下はカラヤン抜きの4枚を重ねたものです。
hikaku.jpg
という事で、ブロムシュテット盤のベト5を基準にする事にしました。

以上で、アンプの最大ボリューム位置が決まります。

上のスペクトルに見るように、西洋音楽ではジャンルに関係なく一般的に低音ほど信号強度(振幅)が高くなる(つまり左上がり)の傾向を示します。また、スピーカの振幅も低音ほど大きくなり100Hz以下では急激に振幅が増加します。このためスピーカの機械的限界は必ず100Hz以下の低音で発生します。

従って、上で決めたアンプボリュームにおいて、ブーストした低周波波形が大きく歪まない事を確認する必要があります。グライコで63Hzをブーストする場合、基本的に63Hz正弦波の歪みを評価すれば良いはずです。では、どのような信号レベルで評価すれば良いのでしょうか?

音楽ソースにスパン一杯の正弦波(つまり0dBFS)が含まれている事は常識的に考えられません。そこで比較的低音が強い楽曲パートの波形を抜き出してみました。

下の図では0dB、-6dB、-12dBFSのレンジを色分けして表示しています。グレーは全周波数の波形、赤は80Hz以下の非常に急峻なローパスを通した波形です

bet5_20121230091757.jpg
ベト5第1楽章の最後のパート(最大音圧になるところ)です。赤の振幅は非常に小さいですね。一般的に、この時代の交響曲の低周波信号はそれほど大きくありません。上のマイルスやマドンナのスペクトルと比べても分かると思います。

ron.jpg
僕のジャズコレクション中最大レベルのベース音です。ロンさんの比較的新しい録音から抽出しました。このアルバムではベースの録音レベルが異常に高くなっています。マイルス時代にひたすら地味にベースラインを弾かされた反動でしょうか?それはさておき、基音は80~90Hzであるため、80Hz以下の信号振幅は-12dB以下に収まっています。

mado.jpg
マドンナの曲から。マドンナの場合、大概の曲で45~50Hz/-12dB程度の低音ビートが通奏されます。-12dBって大した事ないと思われるかもしれませんが、40Hzまでフラットに再生すると、かなりヘビーなビートを聴けます。

haru.jpg
ご存じ「春の祭典」の最強バスドラです。全曲中、この1発だけ周波数が低く(約40Hz!)て強烈です。ローパスを通した赤の波形が瞬間的に-6dBを超えている事がわかります。こいつは強烈です。他のドラムの音はこれほど低周波ではありません(上の波形の2発目のドラムでは赤の波形が全然振れてないですよね)。今回は63Hzまでしかブーストしないので問題は生じませんが、40Hzまでフラットに再生してそれなりの音量でコイツをまともに再生するのは尋常な事ではありません。バスレフでは音量は出せてもこの強烈な立ち上がりは再現できません。

以上から、ざっと考えるに、ベト5 Max80dBAで決めたアンプボリュームで63Hz/-12dBFSの正弦波をそこそこ低歪みに再生できれば、まず大概の楽曲を問題なく再生できるであろうと思われます。-6dB信号ではブリブリとかビチビチとか、明らかに異常とわかる現象が発生しなければ、多少歪みが多くても大丈夫でしょう。

明日、大阪に発つ前にGAMA君での評価結果を掲載する予定です(あくまで予定ですけどね)。オッタノシミニ!
先に年賀状を出してしまわないと。。。。ギリギリまで忙しい。。

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