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2012年08月11日 (土) | Edit |
シリーズ最終回です。今回は、源信号波形とスピーカ出力音響波形の比較による、主として超低域の再生能力の評価方法について考えてみます。

スピーカによる音楽再生において最も困難なのが低音再生であり、スピーカであれアンプであれ、この領域の再生能力に比較的顕著な差が現れると思われます。100Hz以上の帯域では、常識的なレベルで真っ当に作られた装置であれば、安価であっても実用的に十分なクオリティの音楽再生を達成しているでしょう。如何に高額なハイエンド装置であっても、この帯域では、実用的な音楽再生性能における差異は微小であり、もはや単なる好み(オンガクセー、ナンタラカン)の問題と言って良いレベルにあるように思えます。100Hz以上の領域において、高額な装置でナンタラカンの好み以外のアドバンテージが見られるとすれば、さして必要とは思えぬ超音波領域の再生能力と、一般家庭ではとても現実的とは思えぬようなPA級の爆音再生能力くらいではないでしょうか。

以下で紹介する計測は、僕が実用的音楽再生における下限周波数と考える40Hzでのスピーカ音響出力を評価対象としています。30~80Hzの範囲の複数の周波数で評価しても良いでしょう。スピーカだけでなく、アンプの評価においてもスピーカからの音響出力に基づいて評価を行います。アンプとはスピーカを実際に駆動して音を出してナンボのものであり、固定抵抗負荷でアンプ単体の性能を計測したとて余り意味は無いと考えるためです。

以下の評価は、異なる機種を同一条件で評価するために、例えば基準信号(ホワイトノイズ等)を再生した時に500Hz~5kHzの平均音圧レベルが同じになるようにアンプのボリュームを調整した後に実施する必要があります。

1) 40Hzの定常正弦波波形
例えばアンプに40Hz/-6dBの定常正弦波信号を入力し、ウーハー前方に設置したマイクロフォンで波形の歪みを評価します。

まずは、同一のアンプ(NuForce Icon AMP)を使ったスピーカ比較の例です。
sine_20120811045720.jpg
僕の実用最大ボリューム近辺で計測した結果です。黒がAlpair6Mx2本(またはDayton 13cmウーハー1本相当)の40Hz再生波形です。3次の高調波歪みが顕著に見られます。これくらい歪むと耳でもはっきりと分かります。赤と青はAlpair10の結果です。音量を上げても良好な波形が保たれている事がわかります。このように、スピーカによって超低域の再生能力がはっきりと異なります。

次は、同じスピーカ(Alpair 6M)を使ってアンプの低音再生能力を比較した例です。
ICON 40 copy copy
上からNuForce Icon AMP(24W/4Ω)、ONKYO F-905FX(60W/4Ω)、TU870R改(2W/8Ω)です。歪みはIconが最も少なく、TU870Rがもっとも多い事がわかります。また、ONKYOの方がICONよりも定格出力が高いにもかかわらず、スピーカの低域駆動性能はIconよりも劣る事が分かります。この他のテストでも、小さくて安価なIcon AMPのスピーカ駆動性能は極めて高い事が判明しています。

小出力の真空管アンプでは、このような超低音の正確な再生は難しいようです。ただし、このような低音再生においては、高調波成分が多い方がかえって量感(音の大きさ)が豊かに聞こえるという現象が生じると思われます。なぜならば、低音領域では、周波数が低いほど人間の聴覚の感度が低下するためです(低い周波数成分は聞こえにくい)。ただし高調波歪みが多いと、本物のズシンと重い低音は聞こえません。「良質な低音は静かだ」と言われるのはこのためです。ちなみに、超低音域の再生クオリティに優れるAlpair10の場合、30Hzの正弦波を再生すると、振動板がブリブリ動いているのが見えるのに音は殆ど聞こえません。なんか不思議な感じ。。。

定常評価は、波形を観測しなくとも、FFT解析によって歪み率何%、位相シフト何度という数値を簡単に導き出せます。しかし、開発屋としての経験から、波形を視覚的に観察する事は、フィーリングやインスピレーションを得る上で極めて重要であると僕は考えます。

2) 低音の過渡挙動
バスドラやピチカートベース等の低音ビートの再生クオリティは、上記の定常波形だけでは評価できません。また、バスレフ型の場合、定常波形は極めて良好に見えるのですが、そのような急激な過渡信号の再生時に波形が大きく崩れます。

下は、40Hzの正弦波が急激に始まって急激に終わる場合のスピーカ再生音響波形です(Alpair 6M)。
波形の始まり
40Hz始め
波形の終わり
40Hz 終わり
グレーがソース信号です。いきなりマイナスピークから始まって、いきなりプラスピークで終わります。
緑がNuForce Icon AMP、青がNuForce IA7E、赤が業務用アンプのClassic Pro CP400です。ここでもIcon AMPが最も位相遅れが少なく良好な追従性を見せています。20万円を超えるハイエンドのIA7Eは100W以上、CP400は100Wです。業務用のCP400はダンピングファクタ200をカタログに掲げ、IA7Eも高DFを謳っています。しかし、定格たった24WのIcon AMPが最も良好な挙動を示しているのは驚きに値します。このようにカタログ「データ」はあまり当てにはなりません。実際にスピーカを駆動してみてナンボのモンというのはそういう事です。

ちなみに、FrieveAudioで位相遅れと周波数特性を補正すると下図のようになります(Alpair6Mフル馬鹿ブースト、アンプはIcon)。上の図とは極性が反転しているので注意してください。
40 パルス 始め 補正
40 パルス 終わり 補正
青が補正なし、赤が補正ありです。補正をONにすると立ち上がり/立ち下がりともに源信号に忠実に追従する事が分かります。実はこれは音楽再生において夢のような事なんですよ。。。それがたったの3200YENのソフトでできちゃうのに、どして未だに注目されないのか???どして未だにバスレフなのか??不思議です。ホンマニ。。。ナンデヤネン。。。

例えば、凄まじい電源装置を備えた超ハイエンド アンプはIconAMPを遙かに凌ぐような優れたスピーカ駆動力を発揮するのかどうか、また、その効果を明らかに体感するには一体全体どの程度の再生音量が必要なのか、その音量は一般家庭での使用において現実的なレベルなのかどうか、このような計測を行えば一発で分かるはずです。

3) 低音以外の波形観測
低音以外でも、スピーカの音響出力と源信号波形(楽曲データまたは生成波形)を比較する事によって、再生クオリティを明確に視覚化できます。

下は何度か紹介したベース(ロンさん)とトランペット(マイルス)が重なった部分の波形です。スピーカはAlpair6MアンプはIconです。グレーが源信号、赤が実測音響波形です

FrieveAudio補正なし
位相 OFF OFF

FrieveAudio補正ON
位相 ON ON

ヘッドフォン
ヘッドフォン

このように、スピーカ再生波形と楽曲の源信号波形を比べる事により、再生クオリティを明確に視覚化できます。例えば、位相的にかなりの問題を抱えると思われる一般的なマルチウェイ/バスレフ型スピーカがどの程度正確に楽曲の波形を再生できているのか、非常に興味深いところではあります。

下は生成波形による高音域の比較です。
5kHzの正弦波の一部を間引く事により、ピークからピークへ一気に変化する波形を2箇所挿入しています。これはCDデータで表現できる最も高速な信号変化に相当します。

wave copy
グレーが源信号。各点はソースのサンプリング点です(レートは44.1kHz)。赤がIA7E、青がICON、Alpair6Mからの再生音響波形です(オシロのサンプリング周波数は48kHz)。このデータでは、アンプによる差は全く見られません。このような高音域を解析するには、オシロのサンプリングレートをもっと上げる必要があるかもしれません。

まとめ
以上のように、システムの入力である源信号波形と、システムの出力であるスピーカの音響波形を比較する事により、多くの貴重な情報が得られます。ハサミとデータは使いようっちゅうやつです。今回のような計測は毎回行う必要はありませんが、このようなアプローチを重ねる事により、音楽再生技術に関する読者の理解を深める事ができるでしょう。機械イヂリ趣味である以上、そのような知識を読者に地道に提供し続ける必要があります。さもなくば、徒に表層的/感覚的/微視的なプラシーボの魔境への傾倒から脱する事はできぬでしょう。

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