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2012年12月19日 (水) | Edit |
騒音計で計測すると、僕の普段の音量レベル(リスニング位置)は、日中の比較的ボリュームを上げた状態でもせいぜい75dBA程度です。これはSLOWフィルタを使った平均音圧レベルであり、FASTフィルタを使ったピーク値(MAX)測定でも80dBAに時々達する程度です。当ブログで何度か紹介したように、音楽を鑑賞する際に最も多くの人が70~80dBAレンジで快適と感じるようですし(参考記事)、鎌倉のとあるホールの中央付近の席で計測されたベト5の音量もほぼこのレンジに入るようです(参考記事)。

ちなみに、この後のお話しでフラットなCフィルタを使う基準値が出てきます。僕の実験によると、Cフィルタで音楽を計測すると、読み値はAフィルタよりも約5dB増加します。従って僕の平均的な音圧レベル(75dBA)をCフィルタで計測すると約80dBCとなります。

さて、スタジオでのミクスダウンの際、彼らはどの程度の音量レベルでモニタリングしているのでしょうか? 彼らはツイータを焼いてしまったり、ウーハをボコッてしまったりするらしいですが、そんな大爆音でモニタリングしているのでしょうか??? 気になるところです。

というのは、人間は音量が下がると低音が聞こえ難くなるためです。

loudness1.jpg
これは2003年に改訂された等ラウドネス曲線です。この曲線は1kHzを基準に作られています。例えば赤の80dBの曲線は、各周波数において1kHz/80dBAの音と聴き比べた時に同じ大きさだと感じる音圧レベルを示しています。この80dB曲線の40Hzでの値は105dBです。つまり、人間には40Hz/105dBの音と1kHz/80dBの音が同じ大きさに聞こえるという事です。

グラフ全体を見ると、音圧レベルが下がるほど曲線の左上がりの度合が強くなる事がわかります。つまり、音が小さくなるほど低音は聞こえ難くなり、逆に音が大きくなるほど低音は聞こえやすくなります。

loudness2.jpg
80dB(赤)の曲線に70dB(緑)と90dB(青)の曲線を重ねてみました。1kHz以上では曲線の形状は殆ど変わりませんが、低音側は比較的大きく変化します。40Hzで比較すると、80dBに比べて70dBでは約5dB分低音(40Hz)がバランス的に小さく聞こえ、90dBでは逆に約5dB分低音がバランス的に大きく聞こえます。

つまり、彼らがスタジオで平均80dBAの音圧レベルでモニタリングしながらコンナモンヤネと調整したソースを、オウチで平均70dBAの音圧レベルで全くフラットに再生すると、40Hzの音はバランス的に約5dB不足気味に聞こえるという事です。逆にオウチで90dBで再生すれば40Hzの音はバランス的に約5dB過大に聞こえます。このような小音量時の音の聞こえ方を補正するために、昔のアンプには「ラウドネスコントロール」が付いていましたよね。

という事で、一体彼らはどの程度の音量でモニタリングしながら作品を作っているのでしょうか?果たしてソンナニ大爆音で鳴らさないと正しいバランスで聞こえないのでしょうか?今回はそのへんについて調べてみました。

音楽ソースの制作現場においては、スタジオでのモニタリングレベルに関して基準らしきものはなく、様々な音量で再生してみて大きく破綻せぬよう調整されているようです。ラージモニタで大爆音再生して細かい部分をチェックしたり、ラジカセ級の装置でそれなりの音量で確認したりするという事です。ただ、慎重なミクスダウンには長時間のリスニング作業が必要であるため、大部分はニアフィールドモニタを使って常識的な音量レベルでモニタリングされている模様です。そのへんについては後で紹介します。

いろいろ調べて見ると、ホームシアター(5.1chサラウンド方式)の商品化に伴い、モニタリング条件をある程度標準化しようとする動きがあった模様です。その結果、規格というほど厳格なものではありませんが、提案値またはガイドラインと言える値がいくつか提示されています。

SMPTE(米国映画テレビ技術者協会)が提案するSMPTE RP2000では、ピンクノイズ(-18dBFS(rms))を再生した時のリスニング位置におけるスピーカ1本あたりの音圧レベルを下記のように調整するよう提案しています(dBC、SLOWフィルタを使用)。
映画ソース: 85dBC
音楽ソース: 83dBC

NHKも同じ信号を使い、部屋の大きさやソースの種類に応じて78±2~85±2dBC(チャンネルあたり)という値を提案しています。国際規格案では、やはり同じ信号を使い78dBAという値を提案しています(ほぼ83dBCに相当すると思われる)。

これらの提案で使われているピンクノイズは、信号のRMS値がフルスケール(CDの場合16ビット)の-18dBとなるように調整された基準信号です(-18dBFSrmsと表記される)。早速それらしき信号を生成して楽曲のスペクトルと重ね合わせてみました。

曲全体で音圧レベルの高いマドンナの曲からAmerican Lifeです。音量の小さいイントロとエンディングを除いています。青がピンクノイズです。ピンクノイズは-3dB/Octの傾きを持ちます。
american life
この曲では50Hz近辺にズンドコビートがありますね。

ベト5第1楽章のエンディング(ダンダンダン)だけ抜き出しました。楽章中、この部分で最大音圧が発生します。曲全体の平均スペクトルはもっと低くなります。
B5.jpg
ご覧のように、この基準信号は楽曲の音の大きなパートの平均的な信号を概ね良好に代表していると言えそうです。

上記の提案値はいずれも1本のスピーカでの値ですから、2本に換算するには+3dBする必要があります。従って提案値の78~83dBCはステレオ換算で81~86dBCとなります。これをA特性の値に換算すると約76~81dBAとなります。冒頭に書いたように、僕の比較的音量を上げた時のSLOWフィルタによる平均的な音圧レベルは約75dBAですから、提案値の下限とほぼ同等です。彼らが約80dBAで調整したとして、40Hzでのバランス的な不足分は約2.5dB程度です。まあ、制作現場でのモニタリングレベルとして提案されている値からそれほどかけ離れた音量で聴いているわけではないと言えそうです。ちなみに平均75dBAの音圧は、サウンドブラスタのボリューム表示で65%前後です(IconAMPのボリュームは全開)。80dBAの音圧は85%前後のボリュームで得られますが、僕には音がデカ過ぎますし、奥さんのレッドカード必至です。

他の手がかりとして、Pro Toolsというミクスダウン用ツールの関連サイトを見つけました。コチラをご覧ください。こちらでも83dBを推奨しています。CなのかAなのか明記が無いのですが、ツールの基準信号(-20dBFSのピンクノイズ?)をCフィルタで計測した値であると思われます。「研究によると、人間の耳が最良のサウンド判断を行えるリスニング・レベルは83 dB辺りだということです。」と、ありますが、これは1930年代の研究に基づくものであり、そこに掲載されている等ラウドネス曲線も最新版に比べるとフラットな古いデータですので、鵜呑みにはしない方が良いでしょう。なお、僕が上に掲載した等ラウドネス曲線は2003年に改訂されたものです。

この記事で注目されるのは、
ただし、必ずしもミキシングやマスタリングを83 dBで行う必要はありません。ミキシングやマスタリングの重要な判断において、83 dBは優れたボリューム・レベルとなるかもしれませんが、人によって聞き方は異なるので、ニーズに応じてリファレンス・リスニング・レベルを調整するべきです。プロフェッショナル・エンジニアの多くは、より低いレベル (70 dBから80 dBのレンジ) でミキシングやマスタリングを行っています。
とか
フィルム及びビデオの世界の人は83 dBリファレンス・レベルを使用することが多いのですが、オーディオ畑の一部のエンジニアは、より低い77 dB程度でモニタリングすることを好みます。
です。

映画制作現場に比べると音楽制作現場のモニタリングレベルは概して低く、僕が普段聴いているのと大して変わらないか、ほぼ同等と言って良いレベルでモニタリングしているらしいという事が伺えます。結局プロと言えども快適にオシゴトできる快適音量レベルは我々と同じ70~80dB程度という事のようです。彼らにとって「耳」は大切な商売道具なわけですから、85dBAを超える危険音量で長時間モニタリングしたりするワケがありませんよね。もちろん、時々大音量で鳴らして細部のチェック等は行っているはずです。

という事で、平均75dBA/最大80dBA程度の常識的な快適音量レベルは、音楽制作現場からそれほどかけ離れた条件ではない(あるいは、結構近い)と言えそうです。それが好きなら別ですが、狭くて四角い自分のお部屋で快適音量レンジを大幅に超えるような大爆音を敢えて我慢してまでマンヂリともせずに聴く事の論理的な必然性は無いと言えるでしょう。相当な精神的/肉体的ストレスを受けるはずです。

平均70dBAを下まわる小音量で聞く場合、低音不足が気になるようであればラウドネス補正として500Hzから40Hzにかけて直線的に数dBブーストしてあげても良いかもしれません。

また、日本の平均的な家屋でこのように常識的な音量で音楽を楽しむ分には、再三申しているように巨大な装置は全く不要です。

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