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2012年08月11日 (土) | Edit |
シリーズ最終回です。今回は、源信号波形とスピーカ出力音響波形の比較による、主として超低域の再生能力の評価方法について考えてみます。

スピーカによる音楽再生において最も困難なのが低音再生であり、スピーカであれアンプであれ、この領域の再生能力に比較的顕著な差が現れると思われます。100Hz以上の帯域では、常識的なレベルで真っ当に作られた装置であれば、安価であっても実用的に十分なクオリティの音楽再生を達成しているでしょう。如何に高額なハイエンド装置であっても、この帯域では、実用的な音楽再生性能における差異は微小であり、もはや単なる好み(オンガクセー、ナンタラカン)の問題と言って良いレベルにあるように思えます。100Hz以上の領域において、高額な装置でナンタラカンの好み以外のアドバンテージが見られるとすれば、さして必要とは思えぬ超音波領域の再生能力と、一般家庭ではとても現実的とは思えぬようなPA級の爆音再生能力くらいではないでしょうか。

以下で紹介する計測は、僕が実用的音楽再生における下限周波数と考える40Hzでのスピーカ音響出力を評価対象としています。30~80Hzの範囲の複数の周波数で評価しても良いでしょう。スピーカだけでなく、アンプの評価においてもスピーカからの音響出力に基づいて評価を行います。アンプとはスピーカを実際に駆動して音を出してナンボのものであり、固定抵抗負荷でアンプ単体の性能を計測したとて余り意味は無いと考えるためです。

以下の評価は、異なる機種を同一条件で評価するために、例えば基準信号(ホワイトノイズ等)を再生した時に500Hz~5kHzの平均音圧レベルが同じになるようにアンプのボリュームを調整した後に実施する必要があります。

1) 40Hzの定常正弦波波形
例えばアンプに40Hz/-6dBの定常正弦波信号を入力し、ウーハー前方に設置したマイクロフォンで波形の歪みを評価します。

まずは、同一のアンプ(NuForce Icon AMP)を使ったスピーカ比較の例です。
sine_20120811045720.jpg
僕の実用最大ボリューム近辺で計測した結果です。黒がAlpair6Mx2本(またはDayton 13cmウーハー1本相当)の40Hz再生波形です。3次の高調波歪みが顕著に見られます。これくらい歪むと耳でもはっきりと分かります。赤と青はAlpair10の結果です。音量を上げても良好な波形が保たれている事がわかります。このように、スピーカによって超低域の再生能力がはっきりと異なります。

次は、同じスピーカ(Alpair 6M)を使ってアンプの低音再生能力を比較した例です。
ICON 40 copy copy
上からNuForce Icon AMP(24W/4Ω)、ONKYO F-905FX(60W/4Ω)、TU870R改(2W/8Ω)です。歪みはIconが最も少なく、TU870Rがもっとも多い事がわかります。また、ONKYOの方がICONよりも定格出力が高いにもかかわらず、スピーカの低域駆動性能はIconよりも劣る事が分かります。この他のテストでも、小さくて安価なIcon AMPのスピーカ駆動性能は極めて高い事が判明しています。

小出力の真空管アンプでは、このような超低音の正確な再生は難しいようです。ただし、このような低音再生においては、高調波成分が多い方がかえって量感(音の大きさ)が豊かに聞こえるという現象が生じると思われます。なぜならば、低音領域では、周波数が低いほど人間の聴覚の感度が低下するためです(低い周波数成分は聞こえにくい)。ただし高調波歪みが多いと、本物のズシンと重い低音は聞こえません。「良質な低音は静かだ」と言われるのはこのためです。ちなみに、超低音域の再生クオリティに優れるAlpair10の場合、30Hzの正弦波を再生すると、振動板がブリブリ動いているのが見えるのに音は殆ど聞こえません。なんか不思議な感じ。。。

定常評価は、波形を観測しなくとも、FFT解析によって歪み率何%、位相シフト何度という数値を簡単に導き出せます。しかし、開発屋としての経験から、波形を視覚的に観察する事は、フィーリングやインスピレーションを得る上で極めて重要であると僕は考えます。

2) 低音の過渡挙動
バスドラやピチカートベース等の低音ビートの再生クオリティは、上記の定常波形だけでは評価できません。また、バスレフ型の場合、定常波形は極めて良好に見えるのですが、そのような急激な過渡信号の再生時に波形が大きく崩れます。

下は、40Hzの正弦波が急激に始まって急激に終わる場合のスピーカ再生音響波形です(Alpair 6M)。
波形の始まり
40Hz始め
波形の終わり
40Hz 終わり
グレーがソース信号です。いきなりマイナスピークから始まって、いきなりプラスピークで終わります。
緑がNuForce Icon AMP、青がNuForce IA7E、赤が業務用アンプのClassic Pro CP400です。ここでもIcon AMPが最も位相遅れが少なく良好な追従性を見せています。20万円を超えるハイエンドのIA7Eは100W以上、CP400は100Wです。業務用のCP400はダンピングファクタ200をカタログに掲げ、IA7Eも高DFを謳っています。しかし、定格たった24WのIcon AMPが最も良好な挙動を示しているのは驚きに値します。このようにカタログ「データ」はあまり当てにはなりません。実際にスピーカを駆動してみてナンボのモンというのはそういう事です。

ちなみに、FrieveAudioで位相遅れと周波数特性を補正すると下図のようになります(Alpair6Mフル馬鹿ブースト、アンプはIcon)。上の図とは極性が反転しているので注意してください。
40 パルス 始め 補正
40 パルス 終わり 補正
青が補正なし、赤が補正ありです。補正をONにすると立ち上がり/立ち下がりともに源信号に忠実に追従する事が分かります。実はこれは音楽再生において夢のような事なんですよ。。。それがたったの3200YENのソフトでできちゃうのに、どして未だに注目されないのか???どして未だにバスレフなのか??不思議です。ホンマニ。。。ナンデヤネン。。。

例えば、凄まじい電源装置を備えた超ハイエンド アンプはIconAMPを遙かに凌ぐような優れたスピーカ駆動力を発揮するのかどうか、また、その効果を明らかに体感するには一体全体どの程度の再生音量が必要なのか、その音量は一般家庭での使用において現実的なレベルなのかどうか、このような計測を行えば一発で分かるはずです。

3) 低音以外の波形観測
低音以外でも、スピーカの音響出力と源信号波形(楽曲データまたは生成波形)を比較する事によって、再生クオリティを明確に視覚化できます。

下は何度か紹介したベース(ロンさん)とトランペット(マイルス)が重なった部分の波形です。スピーカはAlpair6MアンプはIconです。グレーが源信号、赤が実測音響波形です

FrieveAudio補正なし
位相 OFF OFF

FrieveAudio補正ON
位相 ON ON

ヘッドフォン
ヘッドフォン

このように、スピーカ再生波形と楽曲の源信号波形を比べる事により、再生クオリティを明確に視覚化できます。例えば、位相的にかなりの問題を抱えると思われる一般的なマルチウェイ/バスレフ型スピーカがどの程度正確に楽曲の波形を再生できているのか、非常に興味深いところではあります。

下は生成波形による高音域の比較です。
5kHzの正弦波の一部を間引く事により、ピークからピークへ一気に変化する波形を2箇所挿入しています。これはCDデータで表現できる最も高速な信号変化に相当します。

wave copy
グレーが源信号。各点はソースのサンプリング点です(レートは44.1kHz)。赤がIA7E、青がICON、Alpair6Mからの再生音響波形です(オシロのサンプリング周波数は48kHz)。このデータでは、アンプによる差は全く見られません。このような高音域を解析するには、オシロのサンプリングレートをもっと上げる必要があるかもしれません。

まとめ
以上のように、システムの入力である源信号波形と、システムの出力であるスピーカの音響波形を比較する事により、多くの貴重な情報が得られます。ハサミとデータは使いようっちゅうやつです。今回のような計測は毎回行う必要はありませんが、このようなアプローチを重ねる事により、音楽再生技術に関する読者の理解を深める事ができるでしょう。機械イヂリ趣味である以上、そのような知識を読者に地道に提供し続ける必要があります。さもなくば、徒に表層的/感覚的/微視的なプラシーボの魔境への傾倒から脱する事はできぬでしょう。

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テーマ:オーディオ
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2012年08月04日 (土) | Edit |
今回はレビュー記事に役立つと思われる計測データについて書いてみます。

もちろんデータが全てでは決してありません。しかし、データを「正しく」活用すれば、読者により多くのより精度の高い客観的判断材料を提供する事ができます。また、現象のメカニズム(理屈)に関する理解を深める事ができるため、その先のさらなる改善のヒントともなります。これらのデータはユーザのみならず、製造業者にとっても貴重な情報となるでしょう。当然ですが、誌面では、それらのデータを「正しく」解釈するための「知識」を読者に繰り返し提供しなければなりません。データを扱うにはいかなる場合も慎重な配慮が必要です。「正しく」扱わないと、全く逆効果になってしまう可能性すらあるからです。データを「正しく」活かそうとする努力を怠り、「データでは音が伝わらない」などと安易に片付けてしまう体質は、工業製品を扱う機械イヂリ趣味を対象とする雑誌として、早急に改善すべきであると思います。このような体質が魔境化の大きな一因となり(だって、何の裏付けもなく言いたい放題でやたら高価でしょう)、多くの人々に胡散臭さを感じさせて門戸を狭め、ひいてはオーディオ趣味の衰退を招いているように僕には思えます。

前回はバイノーラル録音データの添付について提案しました。試聴条件を厳密に揃えた上で、優れた資質と的確な表現力を持つ評者のコメント(ブラインドが好ましい)とバイノーラル録音データを組み合わせれば、かなり有用な情報を読者に伝えられると思いますが、今回は、それらを補足する情報として、どのような計測データが役立つのか、僕が実際に計測したデータを例として挙げながら、考えてみます。

1) リスニング環境
製品の評価を行うに際して、可能な限り条件を揃えるべきなのは当然です。でないとデータのみならずそのレビュー記事そのものの意味は大きく損なわれてしまいます。特にスピーカの位置とリスニング位置は大きく影響するため、毎回できるだけ正確に条件を揃える必要があるでしょう。そして、そのような標準位置で計測した部屋自体の周波数特性を毎回必ず掲示すべきであると思います。これは、20Hzまで完全にフラットに再生できる密閉型ウーハー(FrieveAudioで完全フラットに補正)を音源に使って計測できます。ディップやピークだらけの状態では、また、毎回設置位置やリスニング位置が異なるようでは、読者に正しくその製品の特徴を伝える事などできるわけがありません。「その場その時に聞いた」印象を伝えるのが目的ではなく、その製品本来の特徴を読者に伝える事がレビューの目的であるはずです。再三申しているように、音楽再生において部屋の影響は絶大であり、ユーザの部屋の環境はそれこそ千差万別であるという大前提を念頭に置いてレビューを作成すべきであるという事です。でなければ、それらの記事は単なる読み物に過ぎぬでしょう。

603_20120804063707.jpg
上図は、現在のZAP BASSの位置に置いた密閉型13cmウーハをFrieveAudioで20Hzまでフラットに補正し、これを音源として計測した部屋の特性です。青が補正済み13cmウーハの前方約20cmでの特性(20Hzまでほぼフラット)、赤が部屋の中央のやや後方で計測した結果(距離約1.4m)です。100~50Hzでディップ、50Hz以下でゲインが発生しています。僕の部屋(狭い部屋に大量の本と簡易ベッドを詰め込んでいるのでかなりデッド)の計測結果では、部屋の中央より前寄りで聞かない限り、まず例外なくこのような約±12dB程度の顕著なディップとゲインが発生します。同じ部屋であっても、スピーカの設置場所を変えると、ディップとピークの発生周波数も変化します(コーナー設置のTONO君では250Hzにディップ、70Hzにピークが発生)。また、位置関係を相似のまま部屋を大きくすると、ピーク/ディップ周波数は低周波側へ移動します。

100Hz以下の定在波は、本格的な無響室でもない限り、大きくは改善できません。試聴室においては、このようなピーク/ディップが極力発生しない位置関係を選定し、全ての製品の評価を同じ位置関係で行うべきでしょう。最大限の努力を払っても除去しきれなかったピーク/ディップを試聴時にデジタルイコライザで補正すべきかどうかの判断も必要かと思われます(スピーカの特性補正ではなく、部屋だけの特性補正)。

製品の特徴が表れやすように部屋はデッド傾向がよろしいかと思います。基本的に、その場その時に評者の主観的「良い音」で鳴らす事が目的ではなく、製品の特徴を読者に伝える事が目的であるという事を常に念頭におく必要があるでしょう。でないと単なる読み物になります。

部屋のサイズも製品クラスに応じて変更できると良いかもしれません。通常、部屋が小さいほどピーク/ディップが発生する周波数は高くなる傾向にあります。このため、低域特性が伸びていない小型スピーカの場合、広い部屋では低音不足に聞こえても、狭い部屋では部屋による低音ゲインのおかげで丁度良く聞こえる等の現象が生じると思われます。たとえば、上図のような特性の部屋では、50Hzまフラットな密閉型スピーカでほぼ30Hzまでフラットな特性が得られます(ディップはイコライザで補正する必要あり)。逆に、30Hzまでフラットに特性が伸びた大型スピーカをこのような部屋で使うと、50Hz以下の超低音が過多となるでしょう。このように、スピーカは部屋の影響をもろに被ります。その意味でも、スピーカ位置と試聴位置を慎重に選択し、全ての評価でこの位置関係を可能な限り一定とした上で、試聴環境の特性を公表する事は極めて重要であると言えます。

また、温度と湿度はスピーカの振動板の物理特性に大きく影響するでしょうから、エアコンディショニングは年間を通して必須です。当然ですが、暗騒音も時間帯や季節によって変化があってはなりません。微小なオンシツの差や印象など、これらの環境条件の変動に完全に埋もれてしまうでしょう。

2)スピーカの周波数特性
オーディオシステムの評価において周波数特性は最重要です。何度でも言いますが、非常に安価な電気回路でも音楽再生には必要十分な周波数特性、S/N、歪特性を達成できている現代において、音楽再生に最も強く影響するのはスピーカと部屋の周波数特性です。部屋の特性は主に500Hz以下の低音領域で支配的となりますが、スピーカの特性は主に中域(500Hz~5kHzくらいかな?)の印象に強く影響するように思われます。3dB程度の差でも随分印象が変わります。評者の主観的コメントとこの領域の周波数特性曲線の形状を照らし合わせて見れば、かなり強い相関性が見られるでしょう。周波数特性は、読者がそのスピーカのキャラクタを伺い知る上で最も有用な不可欠の情報であると言えます。

616_20120802075734.jpg
黒: Alpair 5(メタル)、赤: 6M(メタル)、緑:6P(紙)の比較(2.5L密閉箱、距離20cmで計測)
振動板の材質は5と6Mがメタルで6Pが紙ですが、200Hz~10kHzのF特は5と6Pが極めて類似しているため、材質が異なるにも関わらず、両者の音には非常に近い印象を受けました。これに対し、6MはF特形状が異なるため、他から明らかに異質に聞こえて驚かされました。このように、スピーカの中域の周波数特性は大きく音の印象に影響します。F特差に比べれば、振動板材質差による印象の違いは非常に微小に感じられました。人間の聴覚は約1~5kHzで最も感度が高くなるため、この音域の差は特に大きく感じられるのではないでしょうか。

計測は、そのスピーカ自体の特性を見るための近接測定(できれば無響室が理想的)と実際のリスニング位置で行うべきでしょう。メーカの公表値や特性グラフは条件が不明であるため何の役にも立たぬと考えた方が良いと思います。また、上で書いたように、読者の実使用環境に合わせるために、スピーカのサイズに応じて異なるサイズの試聴室を用意できると理想的でしょう。

以上の周波数特性(リスニング位置の部屋の特性、リスニング位置のスピーカの特性)は、全ての試聴記事に添付すべき必須データであると言えます(たとえアンプやプレーヤの評価記事であっても常に必須です)。

今回は、ここまで。。。。次回は、スピーカだけでなくアンプの評価にも使える主に超低域の波形観察(定常歪みと動的挙動)について書きます。

追記
僕は水虫君とは殆ど無縁なのですが、ジムで貰ったと思われる足の小指にできた小さな水虫君から質の悪いばい菌君が入ってしまったみたいで、数日前からリンパ腺が酷く腫れ、全身に蕁麻疹が発生して、オシゴトも半ば休業中です。どういうわけか両手両足が腫れ上がってしまい、キーボードも打ちずらい状態が続いています。お医者で点滴と注射をしてもらったのですが、なかなか改善の兆しが見られません。トホホです。痒いし痛いし怠いし。。。最近ジムでアホみたいに毎日泳いでいたため、皮膚が水でふやけて菌が侵入しやすくなったのではないかと、お医者さんは言ってました。同じような症例は結構多いそうです。小さな水虫君でも侮れませんね。ホンマニ。。。当分水泳は禁止です。最近スピードを上げるコツを掴んだのに残念です。。

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2012年07月28日 (土) | Edit |
前の記事からの続きです。

review (英辞朗より抜粋)
【名】
再調査{さい ちょうさ}、再検討{さいけんとう}、再考察{さい こうさつ}
〔過去{かこ}の出来事{できごと}の〕報告{ほうこく}、説明{せつめい}、総括{そうかつ}
・Could we have a quick review of your progress so far? : これまでの進捗についてザッと説明していただけますか?
〔評価{ひょうか}のための〕検査{けんさ}、点検{てんけん}、審査{しんさ}
《法律》〔上級審{じょうきゅうしん}の〕再審理{さい しんり}
〔作品{さくひん}や公演{こうえん}の〕批評{ひひょう}、書評{しょひょう}、レビュー
《印刷》批評{ひひょう}[評論{ひょうろん}]誌
〔テストの前の〕復習{ふくしゅう}、おさらい
《軍事》閲兵(式){えっぺい(しき)}、観兵(式){かんぺい(しき)}
〔ミュージカルの〕レビュー◆【同】revue


今回も、評者の主観的感想を綴った「読み物」ではなく、工業製品たるオーディオ機器の特徴(例えばオンシツ)や性能(例えば音楽再生クオリティ)を可能な限り正確かつ客観的にレポートし、読者が貴重なお金を費やして購入する製品の選択に最大限に役立つ真に有用な情報を提供するための「レビュー」について考えてみます。

今回はバイノーラル録音(と、それを収録したCDの付録)についての続きです。

バイノーラル録音は、製品同士の比較だけでなく、各種の条件比較(スピーカ位置(部屋)の影響、バスレフと密閉の低音の比較、音場補正の効果比較、生演奏と再生音の比較等の各種実験君)を読者に体験してもらうためにも活用できます。使いようによっては、非常に有効なマテリアルになるのではないかと思います。

特に興味深いのは生演奏と再生音の比較です(「原音再生」というのを冷静に評価してみようじゃぁないか。。とね)。例えば、音楽家にスピーカ位置で生演奏してもらい、これを近接マイクとリスニング位置のバイノーラルヘッドで同時録音します。そして、今度は近接マイクの音を装置のスピーカから再生して再びバイノーラル録音します。この2つのバイノーラル録音を聴き比べる事により、その装置がどの程度「原音」に近い音を再生しているのかが概ね分かります。楽器の演奏だけでなく、アナウンサーに何かを読み上げてもらった音声なんかも、装置の評価に使えると思います(ニュースが不自然に聞こえるオヂオを僕は嫌う)。あるいは身近な色々な音(お茶碗の割れる音、黒板を引っ掻く音、バケツを叩く音等)も試して見るとオモシロイのではないでしょうか。このような各種生録音データをストックしておけば、以降の全ての装置の評価に使えます。このような評価により、装置間の差ではなく、その装置の絶対的な癖(カラーレーション)を知る事ができるでしょう。活用方法は、この他にもいくらでもあると思いますよ。

そのようなバイノーラル評価を採用する場合、まず、この方式でどの程度微小な音の違いを識別できるのかを検証しておく必要があります。このため、装置を直接試聴した時のブラインド評価結果と、バイノーラル録音を試聴した時のブラインド評価結果の相関性を確認する必要があるでしょう。これにあたっては、ヒヨロンカではなく本当に聴覚を鍛え上げたプロフェッショナルな被験者(スタジオでマスタリングをやっておられる方々が非常に敏感な耳をお持ちらしい)に協力を仰ぎ、ブラインド評価で有意な結果が得られる何らかの条件の下に試験を行う必要があります。彼らが装置からダイレクトに試聴してギリギリ有意なブラインド結果が得られる条件を探す必要があるという事です。彼らがブラインドで確実に電線を聞き分けられるのであれば、電線を使っても良いでしょう。電線ではまともに評価できないようであれば、ビットレート違いの圧縮データを使う事も考えられます。そのようにして、バイノーラル録音で評価できる事できない事をまず明確にする必要があります。

また、読者が試聴する際に使用すべき推奨ヘッドフォン/イヤフォンも指定しておいた方が良いでしょう。その機種の選定も、彼らプロフェッショナルの協力を得て事前に行っておく必要があります。装置から直接聞いた時とバイノーラル再生を聞いた時の聞こえ方ができるだけ近く感じられる機種を選定するという事です。多くの読者が購入できるよう、あまり高価な機種は避けるべきでしょう。多くのスタジオで愛用されているSONYのMDR-CD900STや、ハチマル推奨のVictor製トップマウント型イヤフォンあたりが適しているのではないでしょうか。オヂオ用の超高級品は余計なオンガクセーとやらが演出されている可能性があるため適さぬのではないかと思います。

以上のような事前検証で判明したバイノーラル録音では伝えきれない現象については、データで補足すれば良いでしょう。例えば、20kHzを超えるような超音波は、鼓膜で感知するというよりは、顔等の皮膚表面で感じていると言われますし、僕もIA7Eを評価した時にそのように感じました。ですから、超音波領域に感度を持つマイクロフォンと計器を使って、そのような領域の強度を測定できれば参考になると思います(参考: このような計器が売られています)。

その他にも、掲載すべき基本的計測データがいくつか考えられます。それらについては、僕が今まで計測したデータを例として挙げながら、次回の記事で紹介したいと思います。その次のシリーズ最後の記事では、真のオーディオ評論家には何が求められるのかについて考察したいと思います。オタノシミニ。。。

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2012年07月15日 (日) | Edit |
前の記事に頂いたカニ様からのコメントへの返信を転載しておきます。

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カニ様

すみません。。。なんかいつも偉そうな事を書いてしまい。

個々人のオーディオ「趣味」そのものに対してとやかく言うつもりは全くありません。そもそも「変な所」があるのが「マニア」ですから。それはオーディオに限った事ではありません。末端ユーザがそれをどう使おうが、それは全くユーザの自由です。それはどの分野を見ても同じです。どの分野でも、一文の得にもならぬ事に熱中するマニアというのは、それ以外の人々からは奇異に見られ、そこには多少軽蔑のニュアンスさえ含まれますし、マニア自身も他者に対しては多少の自嘲を装います(とんだ道楽でお恥ずかしい。。ポリポリ。とね)。。例えば自分自身が誰かの事を「あれはオタクだ」と言う時を思い浮かべれば分かると思います。

maniac
【名】
マニア、熱狂的{ねっきょう てき}な愛好家{あいこう か}◆【参考】mania
〈軽蔑的〉凶暴{きょうぼう}な[手の付けられない]人
・He drives like a maniac. : 彼は狂人じみた運転をする。
〈軽蔑的〉〔躁状態{そうじょうたい}の〕狂人{きょうじん}
【形】
熱狂的{ねっきょう てき}な、のめり込んだ
〈軽蔑的〉〔躁状態{そうじょうたい}のように〕手が付けられない、凶暴{きょうぼう}な
〈軽蔑的〉躁病[状態{じょうたい}]の

ハチマルは以前、自動車業界の製造者(開発技術者)の立場で働いていた経験があるため、意見はどうしてもその立場からの視点となります。ハチマルの苦言は全て業界の玄人さん(製造者、ジャーナリズム等それを生業とするプロフェッショナル達)に向けられているとご理解ください。あくまでも末端ユーザは自由です。ただし、最低限の規範となるべき正しい知識と情報が広く世の中に定着している必要があります。それを促すのがジャーナリズムの大きな責務ではないでしょうか。

業界全体がそれを明確に認識していないようでは困ります。オーディオ装置というのは別にそれ自体を趣味とする少数のマニアのためだけにあるのではないからです。オーディオ装置の本来の目的は、音楽家の作品を大衆に「より良い状態」で伝達する事にあります。そして何が「良い状態」なのかを定義する権利を有するのは唯一音楽家自身だけです。オヂオヒヨウロンカでは絶対にありません。冷静に考えれば、そこに異論を差し挟む余地はないでしょう。

オーディオ ジャーナリズムの大きな役割の1つは、最も尊重されるべき表現者側の意向や情報をできるだけ多く大衆に伝える事にあるはずです。音楽家によって意見も異なるでしょう。それで良いのです。それらが広く世の中で認知された上で、末端ユーザが「音楽家はそう言うてはるけど。。。」と自分の好きなように聴く事には何も問題はありません。しかし、彼の心のどこかで無意識であってもよいからソレをワキマエテイル事が重要です。それが極端な逸脱に対する抑止力として働くでしょう。そして、それを誰よりも深く理解した上で敢えて突破するのが真のマニアと言えるでしょう。

オーディオに限らず、大衆(末端ユーザ)というのは放っておくと極端な方向に突っ走り気味であり、製造者はそれに追従しがちです。専門雑誌というのは、その業界の本来の目的というものを冷静に考え、一歩高い見地に立って、そのような極端な逸脱を監視し、啓蒙を促すという重要な役割を持つべきであると思います。自動車や写真の業界では、少なくとも一流誌と自認するジャーナリズムがそのような役割をそれなりに立派に果たしきたように見えます。それがオーディオでは、逆に雑誌が先頭を切って大衆を煽っているようにしか見えません。どうしてなんでしょうか。。不思議です。

今現在、ユーザ自身が冷静に考えるしかありません。このブログが、そのように考え直してみるきっかけになってくれれば、ハチマルは嬉しいと思います。考えた結果の結論は、人それぞれ全く違っていて良いのです。ただ、一度冷静に考えてみる事が重要ではないかと思います。

以上、ハチマル記

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追記
前の記事「こんなオーディ雑誌どう?」は、随分長いこと注目記事のランキング1位をキープしていました。やはり、現在のオーディオ雑誌に物足りなさを感じている方が多いという事ではないでしょうか。雑誌社には頑張って欲しいものです。

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2012年07月12日 (木) | Edit |
オーディオ雑誌は、LEANAUDIOを始めた頃に数冊目を通して以来、全く立ち読みすらしませんが、こんな内容はどうかな?という提案を何点か挙げてみたいと思います。

1) 内外の一流音楽家や音楽制作者による記事を積極的に載せる(超一流であること)
音楽そのものについて(音楽って何よ?、再生音楽って何さ?)、制作現場の情報(どうやって録音してるの? モニタルームで調整する時の基準ってナニ?、それをソノママ聴いたんじゃ本当にツマラナイノ?、ツマラナイように調整してるの?)、音楽家から見たオーディオ装置について(自分はどうのように使ってる? 再生する時に何が重要だと思う? どんな装置が欲しい? 聴衆にはどのように聴いて欲しい?)、等々。。。だってさぁ。。彼らが作った音楽を聴衆に伝えるのがオーディオ装置の役目でしょ。。。そこんとこを真面目に考えないと始まらないよね。。ジョーカンとか言う前にさ。。。とにかく、音楽の一流玄人さん達のオハナシをよく聞いてみないと、シロートだけでアーダコーダ言っても始まらんでしょう。オヂオのクロートであっても音楽はシロートですからね。

2) オーディオ装置は電気機械装置です - 基礎的な知識の提供
電気機械製品の評価を主たる内容とする雑誌(そうだよね?)である以上、読者に繰り返し基礎的な理論や技術的知識を提供し、できる限りの客観的データを提供すべきなのは当然です。

物理的に見た音楽とはどういうものなのか、再生音楽とは何なのか、オーディオ装置の目的とは何なのか、オーディオ装置は楽器なのか?、オーディオ装置の仕組み(技術的基礎知識)、オーディオ装置に必要な性能とは何か、どのように発展してきたのか、オーディオ装置(再生音楽)には何ができて何ができないのか、現在の装置が抱える問題点は何か、実際に使用する際に何に注意すべきか、オーディオ装置の値段は何によって決まるのか、等々。。。コマケー アクセサリとかのハウツーじゃないよ。。もっと重要で根幹的な知識です。

多くの趣味の月刊誌の場合、どのようなジャンルであれ、1年間購読すると必要な基礎知識が一通り学べるように記事が組まれています。だいたい一年間購読したら、あとは興味のある記事が載っている月だけ購入すれば良いというのが、多くの月刊誌の傾向ではないかと思います。とにかく、その分野の発展を望むのであれば、ユーザに正しい知識と情報を繰り返し提供し続ける事が何よりも重要だと思います。

3) 製品レビューの客観的データの提供
ヒヨウロンカの主観的感覚的な感想文だけでなく、できうる限りの客観的データを読者に提供すべきでしょう。

試聴環境のデータ(部屋の音響特性/寸法/リスニング位置)、計測データ(リスニング位置で計測した周波数特性、位相、信号波形比較、音圧レベル)、ダミーヘッドによるバイノーラル録音データ(CDを添付、読者にリファレンス イヤフォン/ヘッドフォンを指定しても良い、付録で付けるか?)、科学的に正しい手順に従うブラインド評価(大学等の協力を仰ぐべき)、等々。

試聴室は、ユーザの代表的な実使用環境に近いものを用意すべきでしょう。また、製品のクラス分けに応じて異なるリスニングルームを用意すべきでしょう(エンスー向け、リビング向け、個室(デスクトップ)向け、等)。また、条件(スピーカ位置とリスニング位置、部屋の音響特性、音量、温度、湿度、照明、電源、暗騒音等)は年間を通じて厳密に一定に揃えるべきでしょう(だってさぁ。。デンセン聞き分けるんでしょう? そんくらいしないとさぁ。。。)

評価には、読者にも参加してもらうと良いでしょう(年間12回参加可能な読者を数名公募、毎年入れ換え)。様々なジャンルの音楽家、芸術家、有名人にもゲストで参加してもらうと良いでしょう。彼らには各自好きな楽曲を使ってもらうと良いでしょう。

最終的にこれらの結果をどう評価するかは読者に委ねれば良いでしょう(ヒヨウロンカのカンソーブンを重視しようが、データを重視しようが、ブラインド結果を重視しようが、CDで自分で聴いて判断しようが、それは読者の勝手です)。

4) 謎の解明
とにかく謎が多すぎます。しかも、誰も検証しようともせずに、効果が有るとか無いとか言い合ってるだけ。。。製造者がやらんのなら、雑誌がやらんかい。。

人間の感覚は科学だけでは解明できないとか言う前に、とりあえず可能な限りの科学的分析とブラインド評価を体系的に実施すべきでしょう。理論やデータで証明できなくても、ブラインドで統計的に有意な結果が出れば、どんなオマヂナイでも堂々と効果があると言えるでしょう。これをやらない限り、どちらの立場の意見も空論に過ぎません。いつまで経っても魔境のまま。何度でも言いますが、マーケットは健全でないと発展しません。

とりあえず以上かな。。。

どでしょうか?

そんな雑誌なら、たまには買ってもよいかな?

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